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今回は、カメヤ食品株式会社 代表取締役社長 亀谷泰一 様です。
【Profile】
カメヤ食品株式会社
代表取締役社長 亀谷泰一
1963年生まれ。1987年に武蔵大学を卒業後、米国オレゴン州・ポートランドの大学に留学。帰国後はセブン‐イレブンジャパンに入社し、1992年に退職してカメヤ食品株式会社に入社。製造部門や営業部門などでの勤務経験を経て、2011年に社長就任。
生産から加工を一貫で行う「伊豆のわさび屋」
弊社はわさび加工品をメインに製造し、スーパーなど小売店向けの他、観光客向けの土産物用としても販売している会社です。自社の直営店も2023年現在で7店舗あります。最近では海外輸出にも力を入れ始めました。
おろしわさびやわさび漬などのわさび加工品が、売り上げ全体の6割から7割弱を占めています。残りは大根やカブなどの漬物、海苔の佃煮などです。
私の祖父が終戦後すぐの1947年(昭和22年)に食品加工所を創業したのが始まりです。弊社がある静岡県清水町では、味噌造りのもととなる麹の製造が盛んでした。だから創業当時は金山寺味噌の製造が主力だったそうです。
その後、現会長である私の父が2代目の社長の時に、土産物として人気商品だったわさび茶漬けをスーパー向けに売り出したところヒット。そこからわさび加工品の事業が伸びてきたという流れです。
原料のわさびの一部は、自社で所有するわさび沢で栽培しています。4か所合わせて約3,700坪あり、年間約15トンが収穫され
直営店をここまで多く展開しているのも弊社の特徴だと思います。お客さまと直接コミュニケーションが取れるのは、直営店の大きなメリットですね。おかげさまでリピーターも多いですよ。
また、漬物という商材はどうしてもメインターゲットの年齢層が高くなりますが、JR熱海駅の駅ビル内にある店舗は若いお客さまも多く、漬物よりも若者向けに作った「伊豆わさびちーず」などが売れ筋です。
社内でブランディングチームを結成
こうした若者向けがコンセプトの商品開発は、2019年頃から始めました。かねてから、20~30代の若い世代にもアプローチしていきたいと考えていたんです。そんな中、中小企業と協働して新商品の企画やブランディングなどを手がける「有限会社セメントプロデュースデザイン」の金谷勉社長の講演を聴いたのをきっかけに、協力を仰ぐことにしました。
ブランディングに向けた道のりはとにかく地道な作業でしたね。会社の現状分析や課題のあぶり出し、強み・弱みの研究、競合他社の調査などを重ねた上で、今後どういう会社にしていきたいかを若手社員も含めたチームで考えていきました。
その中で浮かび上がった課題の一つが、土産用の新商品の開発だったんです。奇しくもコロナ禍が始まって家飲みの需要が高まっていたので、おつまみとしてスナック感覚で楽しめる「伊豆わさびちーず」や「伊豆わさびピスタチオ」などが誕生。他にも、わさびの抗菌作用に着目した「わさび石鹸」なども開発しました。
これはきっと私一人では成し遂げられなかったと思います。金谷社長のサポートはもちろん、一緒になってアイデアを出してくれた社員たちがいたからこそ形になりました。ブランディングチームでは、今でも毎月定例会を開いていますよ。
より裏方に
経営に関しては、最終的に自分が決定を下すにしても、社内の意見をくみ取りながら決めていくようにしています。ある意味、裏方に徹するといいますか。ま、私自身がぐいぐい引っ張ってくのが苦手で凡人経営者なので(実は当社に入社後は会長のようなトップダウンを真似してみましたが、社員さんから総スカンを食らった苦い経験があります)、選択肢がないというのが本音です。実力の無い人間が無理してカリスマ的な経営をしようとしても、従業員のモチベーションが下がってしまう側面がありますから。
社内には積極的に意見を出してくれる人材や、製造部門の現場スタッフをうまくまとめてくれる人材がいて、大きな支えになっていると感じます。
弊社の従業員のうち、社員は4割ほどで残りはパートやアルバイトです。みんな和気あいあいとしながら働いてくれていますよ。率先して他の人の作業を手伝ったり、何かを注意する時でもきつい言葉は使わないようにしたりと、お互いを思いやる空気ができていると感じますね。採用面接の時にも、思いやりや人柄の良さは重視するようにしています。
海外マーケットの開拓にも意欲
弊社ではわさび加工品の輸出にも注力しています。日本貿易振興機構(JETRO)の協力のもと、アメリカでの展示会を足がかりとして海外向けの商品コンセプトを練っていき、5年ほどかけて足場を固めてきました。
海外ではわさびといえばホースラディッシュ(西洋わさび)なので、日本のわさびの良さを知ってもらいたい。とにかくその一心で、採算は度外視です。
とはいえ海外のマーケットはとても魅力的ですし、手ごたえも感じています。2023年10月にはドイツの食品展示会に出展したのですが、ヨーロッパの人々からの評判は上場でした。特にドイツやフランス、スペイン、イタリアからの引き合いが強いです。ヨーロッパの人々は食に保守的なイメージだったので意外でしたね。
また、中国や韓国からの需要も高いです。2013年に富士山が世界文化遺産に登録されたのを機にインバウンドが激増し、当時御殿場にあった弊社の直営店も大盛況でした。その時に商品を買ってくれたお客さまからは今でも人気が根強く、そこから裾野が広がっているようです。
課題は原料の確保
ただ、問題もあります。コロナ禍を経てわさびの苗を植える生産者が減ってしまい、原料のわさびを確保しづらい状況になっています。
コロナ禍の3年間でわさびの需要が低下し、それに伴って供給も減少しました。しかし、コロナ禍が収束に向かいつつあった2022年の年末辺りから一気に需要が回復した結果、わさびの価格が高騰しています。コロナ禍の前は1キロ当たり5,000円くらいだったのが、今ではその倍は当たり前。一番高い時で1キロ当たり2~3万円ほどまで価格が上がっていました。
弊社では年間150トンほどのわさびを使いますが、120トンほどしか確保できていないのが現状です。どうしても国内への供給が優先となり、輸出向けの販売は控えざるを得ません。例えば仕入れた200ケース分のわさびのうち、海外向けは30ケース分にしぼるなどの調整をしています。
地域で愛されるメーカーへ
私たちが本社を構える静岡県清水町には、日本三大清流の一つに数えられる「柿田川」が流れています。弊社の商品は、ここを流れる富士山の伏流水を使って製造されています。最近リニューアルした「水とつくるカメヤ」というコーポレートメッセージには、こうした良質な水へのこだわりを込めました。
2012年にはおろし本わさびやわさび漬などの原料となる沢わさびの運営に挑戦するため、農業生産法人を取得しカメヤ農園を設立しました。スタート時はわさびだけではなく新鮮な箱根西麓野菜(大根等)作りにトライしましたが、沢わさび作りに専念することになり、自社での野菜栽培は断念しました。そして当初1カ所だった自園のわさび沢は現在4カ所にまで増えました。伊豆の水の恵みによる質の高い沢わさびは世界農業遺産にも認定されています。当社のわさび製品の多くはこの世界農業遺産のわさびを主原料としております。また、箱根の西面で採れる大根や人参等の野菜は箱根山の降雨のおかげで、瑞々しく新鮮で美味しく、三島箱根西麓野菜に認定されています。この野菜を使用した漬物作りにも手塩をかけています。
水へのこだわり、そして素材へのこだわりのもと、まず目指すのは「地域一の漬物屋」。会社のブランディングを練り直す中、社内でもこの思いを改めて共有したところです。
なぜ一番にこのビジョンを掲げるかというと、コロナ禍を経て地域の大切さを再認識したからです。
コロナ禍により観光業は大打撃を受け、弊社の商品の売り上げも低迷しました。その打開策として、清水町にあるカメヤ本店では毎月21日に「漬物の日」のセール(全品20%OFF)を開催するなど、業績回復に努めてきました。
その結果、2020年初回6月21日の売上はたったの5万円程度でしたが、地道にコツコツ継続した結果、2023年度漬物の日の売上はコンスタントに40~50万円ほどにまでになりました。これもひとえに地元のお客さまがリピータ―として足を運んでくれたからこそ。地域に愛されるメーカーにならなければいけないと痛感した出来事です。そこは今後もぶれることなく意識していきたいと考えています。
わさびの魅力を世界に発信
一方で、「地域一の漬物屋」とは相反するようですが、わさびに関しては世界一を目指しています。
実は海外輸出とはまた別の角度から、わさびを世界に広める取り組みもしています。2018年にカナダのわさび農園と調達契約を結び、2019年には現地法人も設立しました。
当初はカナダに自社農園を立ち上げてわさびを生産・加工し、そこから北米に販売する目論みでした。ところが、2017年にJETROの支援を受けて現地視察に赴いたところ、すでに大きなハウスで精力的にわさび栽培に取り組む生産者がいました。
そこで、自社農園をつくるのではなく、契約を結んで栽培の技術やノウハウなどを指導し、現地でのわさび生産をサポートすることにしたんです。
もちろん、いずれはカナダに工場を設立したいという夢も捨ててはいません。海外輸出も徐々に軌道に乗り、日本のわさびの認知度は少しずつ高まっていると思います。これからもその魅力を世界中に紹介していきたいですね。
【URL】
カメヤ食品株式会社の公式サイトです。
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社名:カメヤ食品株式会社
本社所在地:静岡県駿東郡清水町新宿815-2
設立:1961年(創業は1947年)
事業内容:わさび加工品や漬物などの製造・販売
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