長野と東京の2拠点生活で、老舗味噌屋の売り上げアップに奮闘中

今回は、地方にある魅力的な企業や経営者の想いをストーリー形式で知ることのできる求人メディア「Local Link」の特別編です。

地方移住への関心が高まる中、気になるのが移住者のリアルな声。そこで今回は、キャリアチェンジをきっかけに長野県と東京での2拠点生活を始めた森 恵さんにお話を聞きました。

【Profile】
森 恵さん

千葉県出身。慶応義塾大学卒業後、2013年に新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。子会社である株式会社マクアケの立ち上げに携わり、クラウドファンディングサービス「Makuake」で日本酒関連のプロジェクトなどを多数担当した後、2022年に退社。その後、夫の家業である信州の味噌蔵・新田醸造有限会社の仕事に携わる。現在は主に新田醸造のInstagram、メルマガなどを担当。

目次

キャリアチェンジまでの歩み

私は現在、長野県上田市と東京で2拠点生活を送っています。上田市の隣町に位置する埴科郡坂城町にある味噌屋「新田醸造有限会社」で、オンラインストアの売上拡大をメインに仕事をしています。新田醸造は夫の家業です。

サイバーエージェントに新卒で入社後、クラウドファンディング事業を手掛ける小会社のマクアケに配属され、長年にわたってクラウドファンディングの企画をサポートする仕事をしてきました。そんな中で出会った夫と結婚し、マクアケを退職したのち、夫の家業である味噌蔵の仕事を始めました。

マクアケを退職した後、すぐフルタイムで新田醸造の仕事を始めたわけではなく、しばらくはInstagramの更新を部分的に手伝いつつ、日本酒のセレクトショップを運営する会社の仕事も個人で受けていました。

それが、だんだんと「新田醸造でメルマガも配信してみよう」「もっとInstagramでの情報発信に力を入れた方がいいのでは」という具合に熱が入り始めて…。お手伝いを始めた一年後くらいに正式に入社することにして、現在は新田醸造一本で働いています。大きなきっかけがあって転職したというより、「絶対こうした方が良い」と思うことをやっているうちに仕事が増えて入社した、という流れですね。

2拠点生活を選択した背景

出身は千葉県で、ずっと首都圏で暮らしてきたため、地方への移住は生活の面でも仕事の面でも不安がありました。東京駅から長野県の上田駅まで、北陸新幹線でたった90分ほどなので、そのアクセスの良さも手伝って「まずは2拠点から取り組んでみようかな」と思えたことも背景の一つです。

私は新田醸造の中でもオンラインストアやSNSの業務を中心に担当しているので、ネット環境さえあればリモートでも仕事ができます。東京にも拠点を残しておくことで、お味噌の宣伝をする上でも、都内の飲食店や小売店にフットワーク軽く伺えることもメリットだと感じています。

今のお仕事

マクアケで働いていた頃は、プラットフォーマーの営業担当として、ものづくりをされている方や新商品を出す企業のサポートをしていました。当時は、メーカーの新商品発売プロジェクトの目標金額達成を全力で応援させていただくことが仕事でしたが、今はメーカー側の人間として、一時的なプロジェクトではなく、持続的に売上成長させることも考えなければなりません。

仕事としてやるべきことも異なりますし、サポート側として見えていたことと、事業者側で見えている視点が全然違うということを肌で感じています。

新田醸造には現在10人ほどスタッフがいますが、ほとんどが50〜70代で私の親世代の方々です。私と夫が手伝い始めるまで、会社には明確な売上目標すらありませんでした。売上を上げたいけれど、目標をどう立てたらいいかわからない、どう売上を伸ばしたらいいのかわからない、という感じでした。

交通量の多い国道沿いという好立地な場所に蔵を構えているため、かつては関東から観光バスのツアーで来るお客様が長野のお土産としてたくさん味噌を買ってくださいました。ツアーをきっかけに20〜30年にもわたって電話注文してくださるリピーターのお客様もいますが、時代とともにバスツアーの訪問が減少してしまい、新規顧客の開拓があまり進んでいない状態でした。そこで、私と夫で売上回復に向けた新たな施策に取り組んでいます。

オンラインストアは一応運営はしていたものの、積極的に売上を増やすような施策を行っていない状態だったので、Instagramやメルマガ、LINEでの情報発信に加え、メッセージ機能を活用してお客様との交流を積極的に行い、ネット経由で新田醸造のことを知って貰いファンになっていただけるような取り組みを行っています。また、料理家の方に協力してもらい、味噌を使ったレシピも定期的に公開しています。

他にも、オンラインストアを使いやすくするためにカートシステムを一新したり、新商品を開発したり、ロゴやパッケージをリニューアルしたり……。こうした努力や工夫を重ねた結果、顧客層の大半が60代以上だった状態から、30〜40代のお客様も次第に増えてきています。

また、蔵に直売所も構えているのですが、商品陳列を工夫したり商品のポップを作り直したりと、実店舗の売上アップに向けた改善も進めています。

新たなチャレンジへの反応は

夫の実家とはいえ、昔からいるスタッフ達からすれば、いわばよそ者です。うまく溶け込めるか心配していましたし、積極的に新しい取り組みを始めようと思っていたので、どんな反応があるか不安がなかったわけではありません。ですが、ありがたいことに大きな反発もなく受け入れていただいています。

今までの新田醸造が頂いたことのなかった、オンラインストアやSNS経由でのお客様から「いつもレシピを楽しみにしています」とか「DMに返信してもらえて嬉しかったです」などの声をたくさん頂けるようになったので、それもあって信頼の後押しになっているのかもしれません。

また、大きな変化を起こすときは、昔からのスタッフの方々との連携を大切にしています。リブランディングでロゴ・パッケージを一新するタイミングで商品の値上げに踏み切る際は、現場で働くメンバーからはお客様からのクレームを心配する意見がありました。

そこで、夫が中心となって値上げの理由を説明した手紙を作り、これまでのお客様に一斉に送ることにしました。手紙の内容や送るタイミングは、他の社員とも相談しながらすり合わせました。その甲斐あって、値上げに関するクレームはほとんどなく、むしろ「これからも応援してます」という心温まるメッセージをたくさん頂きました。

一方的に新しいことを進めるのではなく、もともと働いていた方たちとも丁寧にやり取りしながら進めることが理解を得る秘訣だと思います。

2拠点生活で見えてきた違い

東京と長野を行き来していると、生活面でのギャップは良くも悪くもいろいろと感じます。

何よりも大きな違いは冬場の寒さです。覚悟はしていたものの、想像していた以上に大変でした。長野県は山に四方を囲まれている分、日の出が遅く日の入りが早いため、朝と昼、昼と夜の気温差を東京よりずっと感じます。冬場を長野で過ごすときは、おしゃれよりもまずは防寒性重視のファッションをするようになりましたね(笑)

山に恵まれている分、白馬だったり野沢温泉だったり、車で1時間半くらいで行ける日本でも有数のスキー場が複数あるので、ウインタースポーツが好きな人ならきっと楽しめるはずです。上田市内の菅平高原は1時間も掛からないくらいですぐに出かけることができます。私も長野に来てからスキーを始めました。自然の中でアクティビティを満喫できるのは地方ならではの良さだと思います。

その一方で、私は映画鑑賞も好きなんですが、残念なことにIMAXの映画館が長野県にはありません(笑)得意とする娯楽やレジャーの種類は違いがありますね。

また、これは思いがけず嬉しかったことの一つなんですが、上田市にはおしゃれで美味しい個人経営のカフェや飲食店も結構あるんです。飲食店の数は当然ながら東京の方が多いですが、私の好みに合うお店はもしかしたら上田市の方が多いかもしれません。また、飲食店の価格帯は東京よりもずっと安いと思いますね。

友人作りは積極性が肝心

長野での暮らしの中で、交友関係を広げる難しさも痛感しました。夫にとっては地元でも、私にとっては縁もゆかりも無い土地なので、会社以外のコミュニティに入る機会が無いんですよね。子どもがいれば保育園や学校で親同士の交流も生まれますが、うちはまだ子どもがいないですし。

地方移住では、知り合いがいない環境に飛び込んでいくパターンが多いと思います。そのような場合、自分から積極的に新しいコミュニティに参加する機会を作らないと、友人を作るのはなかなか難しいかもしれません。

運動不足には要注意

長野にいるときの移動はほとんど車で、いわゆる車社会です。車社会ならではの悩みは、油断するとすぐに運動不足になってしまうことですね。なるべく意識的に歩くように気をつけています。

以前、深夜に体調を崩したことがあるのですが、その時間帯だと車で1時間以上かかる温泉街の病院しか受け入れておらず……。そのときは雪が降る山道を夫に運転してもらいながらなんとか病院まで辿り着きました。上田市内でも比較的中心部に住んでいますが、それでも時間帯によってはアクセスの悪い病院に行かなければならないのは、緊急時のことを考えると少し不安がありますね。

でも、出勤時に車中から眺める雄大な山々と、千曲川が流れる景色は格別です。遠くの方で綺麗に輝く日本アルプスが連なっているのを見ると、すごいな〜ってテンションが上がります。夫はノーリアクションですが(笑)、そこで生まれ育った人たちにとっては当たり前でも、都会から来た私にとっては感動的な光景です。

気になる教育事情

若者世代や子育て世代が移住する場合、地方の教育事情は気になる点だと思います。

うちはまだ子供がいないので具体的に調べているわけではないですが、夫が小学生だった頃と比べて子供の数は減っているそうです。また、長野に限ったことではありませんが、教育に熱心な家庭が首都圏に流れてしまうことが増えているという話も聞きました。

一方で、自然が豊かな環境でのびのびと子育てができるのはメリットだと思います。

私たちは現在2拠点で暮らしていますが、将来的にどちらにシフトしていくかはまだ決めていません。いまは家業が最も優先されることですが、これから子供ができたり、子供が大きくなって進路を選んだり、それぞれの両親の介護が必要になったり、これから先ライフイベントによって様々な転機があるはずです。その変化に応じて、じっくりと話し合っていこうと考えています。

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