都内のベンチャーを飛び出し、秋田県男鹿市でまちづくりに挑む

今回は、地方にある魅力的な企業や経営者の想いをストーリー形式で知ることのできる求人メディア「Local Link」の特別編です。

地方移住への関心が高まる中、気になるのが移住者のリアルな声。そこで今回は、転職を機に東京都から秋田県男鹿市に移住した荒木珠里亜さんにお話を聞きました。

【Profile】
荒木 珠里亜さん
1994年、東京都生まれ。ICU(国際基督教大学)在学中に株式会社キュービックにインターンとして入社し、卒業後はそのまま正社員として入社。採用担当や新規事業の立ち上げなどを経て、秋田県男鹿市の稲とアガベ株式会社に転職。現在は地方政治への参画を志し、男鹿市でまちづくりに奮闘中。

目次

転職のきっかけ

私は東京都世田谷区の出身です。都内の大学に進学し、3年生の時に長期インターンとして入社したベンチャー企業にそのまま就職。地方暮らしとは縁のない生活を送っていました。

自分で立ち上げた新規事業を閉じる決断をしたことが大きな転機です。当時は長期インターンの人材紹介・導入支援サービスの立ち上げを行っていたのですが、本当にサービスを届けたいところまで思うように届けられず……。次第に「改めて、自分は何のために働きたいんだろう?」と考えるようになりました。

そこでキャリア関連のセミナーなどに参加しつつ、かねてから関心があった社会課題について勉強するうちに、一つの目標が見えてきました。それが、地方自治体の「首長」になること。自分自身がプレイヤーとして地方政治の道に入り、世の中を変えていくことに挑戦しようと決めました。

そして、その目標への道として、いきなり政治に進むよりも、まずは地域に根差した会社で働いて「まちづくり」に携わりたいと考えました。自分が市民だったら、一緒になって泥臭く、本気でその街を良くしたいと活動している人にこそ、市長になってほしいと思うな、と考えたんです。

稲とアガベとの出会い

移住先としてイメージしていたのは、その土地ならではの自然や文化の魅力があり、人口5万人以下ほどの大きすぎない街で、私のような「よそ者」でも受け入れていただけるような場所。1年ほど時間をかけて探しましたが、どこも非常に魅力的だったものの、絶対にここでなければならないという決め手には欠け、だいぶ苦戦しました。

そんな中、縁あって秋田県男鹿市にある稲とアガベ株式会社の岡住修兵代表と出会いました。「クラフトサケ」というお酒の新ジャンルを確立する取り組みや、日本酒特区を目指す構想など、男鹿の未来を切り拓くビジョンを聞くうちに、自分が挑戦したいこととぴったりはまる感覚がありました。

岡住代表から話を伺った3週間後には男鹿を訪問。男鹿駅に降り立った時、きれいな空気や空の広さ、趣ある街並みが「すごく良い!」と感じました。岡住代表の話を聞いて「きっと良いところなんだろうな」と感じていたので、それが確信に変わった瞬間でした。

この時に岡住代表以外の従業員の皆さんともお会いしました。同世代の若いメンバーもおり、初対面の私にもすごく良くしてくれて。3日間の滞在の最終日には、ぜひ一緒に働かせてほしいと伝えていました。知り合いがいない環境に飛び込むのは勇気が要りますが、「この人たちとだったら頑張れる」と思えたことが大きな後押しになりましたね。

そして2024年1月、男鹿市に移住。最初の2か月間は地域おこし協力隊インターンとして雇用され、インターン期間終了後の2024年4月から正社員に加わりました。

移住後のお仕事

稲とアガベが目指しているのは、「男鹿を世界中の人々が訪れる酒の聖地として活性化する未来」。そのために、男鹿を「日本酒特区」にして清酒醸造の参入ハードルを下げることや、男鹿を熱意ある醸造家が集まる「日本酒シティ」とすること、地域の未来を担う人材を育てていくことの3つを事業構想に掲げています。

その未来に向けたステップの一つとして、男鹿駅周辺に人が集まるコンテンツを作るまちづくり事業も推進中です。私は主にその準備に携わっていて、例えば今は新たにオープンする宿の企画を進めています。宿の運営は未経験ですが、入社してすぐにプロジェクトを任せてもらい、宿でのオペレーションの設計やシステム導入の検討、内装の検討や施工業者とのやり取りまで、幅広くやらせていただいています。

私はただ与えられた仕事をこなすより、ゴールに向かって自分で道筋を考えて進めていく方が好きなので、ある程度裁量を任せてもらえるのはやりやすいですね。他にも、前職で経験のある人事周りや、取材の問い合わせ対応や記事の校正など、広報的な業務も一部任せてもらっています。

会社は週休2日制で、都内で働いていた頃と比べて働き方に大きな差はありません。稲とアガベは酒造り以外にも多くのプロジェクトを手掛けている会社ですが、毎日残業に追われるようなことはなく、プライベートの時間も確保できています。終業後や休日は、会社の仲間やそのご家族と食事に行ったり飲みに行ったりと楽しく過ごしています。自炊の頻度も増えたので、家でもよく地元で獲れたおいしい魚介や地酒を堪能しています。

交通面の心配は自宅選びの工夫で解消

地方は車がないとどこにも行けないイメージがあるかもしれません。私は運転に不慣れなので、初めは車社会での生活が心配でした。

そこで岡住代表に相談し、会社のすぐ近くに部屋を借りて住むことにしました。ちなみに、通勤時間は徒歩30秒ほど。会社の他のメンバーも近所に住んでいるので、困った時に頼れる場所が近くにあるという意味でも心強いです。

自宅や会社は男鹿駅から近く、コンビニやスーパー、市役所なども徒歩圏内なので、今のところ不便と感じたことはありません。自転車でゆったりと街中を走るのも好きなんです。男鹿駅周辺は歩いて行ける範囲においしいお店もあり、車がなくても十分住みやすいと感じています。

休日は電車で秋田市内まで遊びに行くこともあります。また、私は移住後も頻繁に東京に行く機会があるのですが、秋田駅で新幹線に乗り継げば電車だけで移動できます。時間はある程度かかりますが、よく行くエリアまで電車移動のみで完結できるのはかなり助かっています。

秋田は言わずと知れた雪国ですが、自宅から歩ける距離に職場や、生活に必要なお店があるので、冬場もさほど苦労せず過ごせました。なるべく自分が困らなくて済むように家を選んで正解だったと思います。

地元の人々との交流も

地方には閉鎖的なイメージがある人も多いかもしれませんが、私は男鹿に来てからそのように感じたことはありません。

以前、アルバイトで地元の漁師さんたちの手伝いをしたことがありますが、移住者の私のことも当たり前に受け入れてくださりました。よく食事に行くお店の皆さんも、いつも温かく迎えてくださります。

地域のカフェなどで開かれているイベントにもよく顔を出しています。参加者は地元の方が中心ですが、「どこからこんなに集まったんだろう?」とびっくりするくらいたくさんの人が集まるんです。その土地で暮らす人々とのつながりや空気感を肌で感じられるので、都会での娯楽とはまた違った魅力があります。

イベントには参加者の子どもたちが来ることもあって、親だけでなく周りの大人たちも一緒になって遊んであげるんです。子どもの数は少ないですが、だからこそ地域みんなで子どもを育てている空気があって、すごく素敵な風景だと思うんですよね。

移住後の経済面は要チェック

マイナス面のギャップを強いて挙げるとすれば、そこまで生活コストが下がらなかったことでしょうか。家賃は安いんですが、私が住む地域の場合は物価や飲食店の価格は都市部とそこまで変わらない印象です。

一方で、賃金は都内と比べるとどうしても安くなります。私のように頻繁に東京と行き来するような場合、地方の企業1社だけの給与でゆとりを持って生活していくのは厳しいかもしれません。私も今の仕事の他に、リモートワークで副業をしています。

私は移住に当たり、「地域おこし協力隊インターン」という制度を活用しました。お試しで2週間~3か月間移住して地域おこし協力隊として活動するもので、期間終了後はそのまま残ることも帰ることもできます。

会社ではこの制度を活用して働いている人が私以外にも多く、私のように期間終了後もそのまま働く人もいれば、1か月ほど経験を積んで帰っていく人もいます。自分も地域側もリスクを最低限にしつつミスマッチを防げるので、このようなお試し移住の枠組みを活用するのも手だと思います。

地域ならではの魅力を掘り起こす

私はもともと地方に住むなんて少しも想像したことがありませんでした。何でも揃っている東京をわざわざ出る必要はないと、勝手に先入観を抱いていたんです。でも、自分の挑戦したいことや目標を深堀りすると、地方というフィールドの方が合うことに気づきました。

それからは地方を見る目が変わりました。「地方」とひとくくりにされがちですが、それぞれの土地の個性や魅力は千差万別です。結局は自分にとってその土地が合うかどうかだと思うんですよね。そこに無いものに目を向けるより、あるものを面白がる姿勢が大切なんだと思います。

その土地ならではの文化や自然、そこに住む人々の雰囲気、そこでしか得られない経験こそがその土地の魅力であり、訪れる理由になります。そして、外から来た人の方がその魅力に気づけることも多いと思います。私自身ももっと男鹿の魅力に触れ、たくさんの人にそれを届けていきたいです。

 

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