「Local Link」は、地方にある魅力的な企業や経営者の想いをストーリー形式で知ることのできる求人メディアです。求人募集中の企業については、インタビューの最後に求人情報と応募フォームが掲載されています。
今回は、株式会社協同商事/コエドブルワリー 代表取締役社長 朝霧重治 様です。
【Profile】
株式会社協同商事/コエドブルワリー
代表取締役社長 朝霧重治
1973年埼玉県川越市生まれ。県立川越高校、一橋大学商学部卒業。新卒として三菱重工業株式会社に就職。海外向け輸出プラントに従事するも1年半後に義父が経営する株式会社協同商事に入社。同社の主幹事業であるクラフトビール事業を再編し、「コエドビール」をグローバルブランドへと育てる。2009年6月より代表取締役社長。2023年6月一般社団法人埼玉物産観光協会会長に就任。
現在の事業内容は?
COEDOビールにスポットライトが当たりがちですが、会社自体は農産業をベースとした総合食品企業であり、大きく卸売と製造と物流の3つのパートで事業を構成しています。トピックスとしては川越花き市場内にて仲卸事業も展開。コミュニティビジネスとしてお花を扱っています。
もともと協同商事が農業を原点にスタートしていることもあり、ビール大麦を有機栽培でつくるプロジェクトを進めています。私も実験を兼ねてコンバインやトラクターに乗っています。もちろん種を蒔いたり、麦踏みしたりも。将来的に自家栽培を拡大していく上で実体験が大事だと考えているんですね。農作業が好きだということもありますが(笑)。
実験のひとつとして自動運転やGPSを導入してどこまで人力の負担を軽減できるか、という確認もしています。座標さえきちんと取れれば人間が乗るよりもまっすぐ運転できるんですよね。最近はアグリテックの実用化が進んでいますが、願わくば既存のトラクタやコンバインにビルトインして自動化できるようになることですね。そうすればコストも抑えられて幅広く普及するだろうと期待しています。
ターニングポイント
地ビールからクラフトビールへの転換を図ったことが大きなターニングポイントでした。観光客向け地ビールの盛り上がりに乗って設備投資に踏み切った直後、ブームが去った。ビール事業が赤字に陥り、経営が追い詰められた上での事業再編。ただ、この変革はわれわれが生き残るためではなく、そうであったほうがお客様にとっても良いことだったんです。
そもそも地ビールとは観光地の土産物。地域の方が楽しむというよりも地元を盛り上げるツールという位置づけでした。でもビールって本来、個性豊かな色や香り、味わい、奥深さを持つ農産物。それを知っていただくことに本質的な価値があるんです。
そして効率は悪くても高品質なものを丁寧につくる。手づくりのよさ、人間起点のものづくり、職人が大切という考え方は先代から会社として大事にしてきた考え方でした。そういったことをビールでもきちんと説明しようと決めたときに出会ったのが「クラフトビール」という言葉。われわれがやりたかったことをひと言で伝えられるワードでした。
市場調査に裏付けられたニーズやウオンツに答える事業は大企業が展開力で勝負する領域。われわれスモールカンパニーがやるべきことはまだ誰も気づいていない、こんなものがあったらいいよねという少し先の未来のご提案なんです。それがまさにクラフトビールという英語に凝縮されていた。アメリカの人たちも同じことを感じていたのかもしれません。
そこから地ビールだった『小江戸ビール』をクラフトビールの『COEDOビール』へとリブランディングする作業に着手していくことになります。
名称は最初、誰がどんな思いでつくっているか、というクラフトの面を打ち出そうかという案もありました。しかし小江戸は川越の象徴である一方で、他地域の方にとっては音だけでその連想はされないとわかった。しかも三文字で覚えやすいし語呂も悪くありません。
そこで海外展開も視野に入れてカタカナとアルファベットで表記しようと決定。コーポレーションやカンパニーが「C」からはじまることから頭の文字を「K」ではなく「C」にアレンジしました。デザイナーもKよりCのほうがやりやすい、と賛同してくれましたね。
プライシングについては当然、価格勝負ではありません。ただし一般的な値段からあまりにもかけ離れては手にとりづらくなります。結果としてマーケットインではなくプロダクトアウトで決定しました。大手メーカーのプレミアムよりも高くなるのですが、ビール好きなら絶対的に出費できない金額ではないところですね。その代わり味はもちろん品質の良さ、バリエーション、そして「Beer Beautiful」という世界観でお客様に還元しようと。
経営で大切にしていること
いわゆる「選択と集中」ですね。自分たちがやりたいこと、やるべきことはこれだと専門分化することがスモールカンパニーにとっては重要。たとえばわれわれはウィスキーもつくれます。投資もさほど必要ないし、比較的ハードルは高くない。でもウィスキーとビール、どちらが本気ですか?と聞かれたら…どちらもですというのはやっぱり違うと思っていて。
だからあえてウィスキーはやらない。やらないことでわれわれはビールを追求するんですというスタンスが明確になりますし、逆にウィスキーをやっている人たちと協同になれるんですね。ここでコラボレーションが生まれてつながっていくのが大事かと。
なんでもかんでも自分たちでやらなくていい。全てを囲い込もうとしない。やっぱりウィスキーがめちゃくちゃ好きな人がつくるプロダクトには敵わないんですよ。その逆も然りですし。それぞれの人が専門性と熱い思いによってものをつくり、それで全体が成立している世界であればいい。
実は先日、アイルランドのクラフトウィスキーメーカーからコラボレーションのオファーをいただきました。われわれがウィスキーをやっていたら、こういうことって絶対ないですよね。このつながりが生まれるのが面白いと思います。
もともと競合という考え方があんまりないんですよね。同じことをやっても人によって、会社によって基本的には違うと思っています。クラフトビールのマーケットでもそれぞれの理想感って異なるわけですし。おいしいのは最低限。そのうえで、それ以外のところに個性がにじみ出てくる。
ビジネスって戦いじゃないと思うんですよ。他がやっててうまくいってるならやらなくていい。それよりも自分たちがいいと思ったことを理解していただくことが大事なんですよね。農業から関わっていく姿勢とか、ブルワリーの立地とか含めてですね。
その上で、たとえばわれわれのオペレーションがよろしくないことでお客様から選択されないのであればそれは仕方ないことだと。決してエゴではありませんよ。ただ、必ずしも組織はゴーイングコンサーンでなければならないとは思っていないんです。
組織の生き残りのためではなく、やっていることに意義があり、やりたい人がいて、それをいいねと言ってくれる人がいるから存続している。会社が生き残るために何かをやるのはちょっと違うんじゃないか。そんなふうに考えています。
地域への思い
川越には古くから職人文化が根付いていて、200年以上醤油をつくっている職人さんや川越唐桟(かわごえとうざん)と呼ばれる木綿織物など地元の名産品が数多くあります。こうした職人文化の文脈の上に、われわれのものづくりもあると考えています。
また「コエド」という名前も川越という地域が育んできた共通の財産「小江戸」をビールの分野で使わせていただいています。海外進出の際にも川越の風土文化は追い風になります。
このようにさまざまな面で地域のアセットを利用させていただいている以上、何らかの形でフィードバックする使命があります。しかもボランティア的なものではなく、われわれが活動すればするほど地域にポジティブなリターンが生まれるようなものを。
つい先日、一般社団法人埼玉県物産観光協会の会長に就任したばかりなのですが、さっそく嬉しいニュースが入ってきました。ちょうど先週、この地域の循環式農業が世界農業遺産に認定されたんです。江戸時代から続く農業で、川越から三芳町、所沢にかけて拡がる雑木林の落ち葉を集めて堆肥をつくるというもの。
有機農業の社会的価値は自然環境の維持にあります。それが実践されてきた場として埼玉が評価された。そういう中にわれわれの活動もあるので、誇らしい思いでいっぱいです。こういったことを積極的に発信していくことも大切かと思います。
いわゆるメガ観光地とは異なり、埼玉観光は二番手、三番手のポジションです。一番手が観光で栄えるのは当然のこととして、川越をはじめとする埼玉の各地区がインバウンド含めて観光ブランディングに成功すれば、そのメソッドは他の地域にも応用できるんじゃないでしょうか。
将来のビジョン
冒頭でもお話しましたが、協同商事としては有機農業の普及が進んでいないという課題に取り組んでいます。そのアクションの一つが醸造所内の実験農場での麦づくりなのですが、さらに一歩進めてエンターテイメントの中に農業と自然に楽しく触れ合える場をつくる目的で『麦ノ秋音楽祭』というフェスをはじめました。
コロナ禍で一定の浸透を見せたキャンプに音楽、そしてビールという要素がつながった、かけがえのない時間を過ごしていただくイベント。ここに地元の方々が遊びにくるだけでなく、これまでこの地域に接点がなかった人まで訪れるという効果が生まれます。
会場にある麦畑を通してビールは農産物であることを知る。その麦が有機農業でつくられていることにリアルに触れる。そういったことをあくまで楽しく、ポジティブなフィーリングで伝えていく。そうすることで将来的には耕作放棄地などの問題にも積極的に関わっていけるんじゃないかと思っています。
農業というのは非常にロングタームで考えていかなければなりません。明日、明後日で何かが変わるといった短期スパンではなく、10年後、20年後を見据える必要があります。30年後、ブルワリー周辺に来ていただくとそこには1000ヘクタールの麦畑がひろがっている…そんな想像をしています。農業としてのインパクトも大きいですよね。
その第一歩としての『麦ノ秋音楽祭』。麦の種まきを行う11月と、収穫期である5月の年2回開催というスタイルを定着させていくことで「農業って楽しい」「農業ってカッコいい」とエモーショナルな魅力を発信していきたいと考えています。
どんな人材が必要か?
協同商事では行動指針として「三方良し」と「知・好・楽」を掲げ、明文化しています。組織が目指す方向性はきちんとお伝えして、それに対して共感していただくのが一番だと考えています。
その中で何ができるか、得意なのか、あるいはやりたいのかは働く側それぞれがお持ちになると思うので、やはりわれわれの責任は重大ですね。会社が目指している姿を正しく伝えてギャップをなくすことが何より大事ですから。
カルチャーフィットの重要性については大都市であろうが地方であろうが関係ないでしょうね。あらゆる組織において重視していくべき採用上の要点でしょう。最近は特にパーパスがあちこちで取り上げられていますが、それだけ大事なことなんだと思いますよ。
とはいえ、やはり上場企業や大企業と地方企業の待遇差はありますよね。ここを少しでも埋めていくためにしっかりと収益を生んでいくこともミッションやビジョンと同じぐらい重要。スモールカンパニーだからというのを言い訳にしてはいけません。
ただ、そういった面で及ばないとしても、われわれにはビールづくりという本当に面白い、心から打ち込める事業があります。これだけ造り手冥利に尽きるプロダクトもないですよ。創造性がいかんなく発揮されます。ビアスタイルだって100種類以上あるのに、更に増殖していく。こんなに奥深い農作物、なかなかないと思います。
株式会社協同商事の公式サイトです。
ーーーーーーーーーーー
社名:株式会社協同商事
本社所在地:埼玉県川越市中台南2-20-1
設立:1982年
事業内容:青果物卸売事業・ビール製造事業・食品輸入事業・物流事業・花き卸売事業・環境関連事業
ーーーーーーーーーーー