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今回は、九州農水産物直販株式会社 代表取締役 小田保 様です。
【Profile】
九州農水産物直販株式会社
代表取締役 小田保
1977年に山口大学経済学部を卒業後、東陶機器株式会社(現 TOTO株式会社)に入社。2006年から2010年までTOTO北部九州販売株式会社社長に就任。2010年からは九州経済連合会に出向し、2018年6月まで同会の農林水産部長を務めた。2018年7月より現職。
直接販売による輸出を実現
弊社の主な事業内容は、九州産の農水産物やその加工品の海外輸出です。2023年現在の輸出先は香港が中心で、香港でも有力なスーパーマーケットグループであるDairy Farm社と取引しています。
弊社の輸出事業の強みは、最終販売先までの流通経路をシンプルにすることで中間マージンを極力抑え、生産者の手取りを確保している点です。
従来の海外販売では、産地から卸・仲卸を経由し、さらに輸出業者と輸入業者を通して最終販売先に至るビジネスモデルが一般的でした。しかし産地と最終販売先を結ぶ流通段階が多いと鮮度が落ちますし、販売価格も高くなってしまいます。消費者の声が産地に届きづらいというデメリットもありました。
そこで、弊社では産地から直接仕入れた商品をDairy Farm社に直接販売しています。これは今までにあまりなかったビジネスモデルだと思っています。
また、従来の海外販売では消化仕入れ方式が一般的でした。消化仕入れ方式では商品が売れて初めて仕入れとして計上され、実際に売れた分の代金のみが支払われます。だから、生産者にとっては売れ残りのリスクがあります。一方、弊社のビジネスモデルでは買い取り販売を実現したため、売れ残りの心配がなくなったのも大きなメリットです。
海外での産直構想がきっかけ
直接販売による輸出に乗り出したきっかけは、市場調査で香港やシンガポールを訪れた際に、日本産の農産物が日本国内の5倍くらいの価格で販売されていたのを目の当たりにしたことです。いくら富裕層が増えてきているとはいえ、「そんな馬鹿な」と感じましたね。
実は、私たちが最初に目指したのは香港やシンガポールに産直市場を作ることでした。
福岡県の糸島市に「伊都菜彩(いとさいさい)」という産直市場がありますが、ここは国内で最大の売り上げを誇るJA直売所です。わざわざ高速代をかけて訪れる買い物客も多く、それだけ鮮度のいいものへの需要は高いということです。
そういうことを香港やシンガポールでやりたかったんです。ただ、店舗の確保が難しく、産直構想は頓挫しました。
しかし、その後の2014年度に転機がありました。当時私が農林水産部長を務めていた九州経済連合会(九経連)の「九州産直市場検討協議会」で、香港の現地調査に訪れたんです。この時に縁あってDairy Farm社と関係を構築。香港内のスーパーに九州産の農水産物の産直コーナーを設けてもいいと合意を得られました。
そこで九経連のバックアップのもと、2015年8月に九州農水産物直販を立ち上げ、12月には輸出を開始しました。事務所の開設が間に合わないほどのスピード感でしたね(笑)。
さらなる事業拡大へ
香港にはイオンやそごうなども進出していますが、 日本の生産者や輸出商社はたいていこうした日系のスーパーに売り込みに行きます。やはり外資系企業のDairy Farm社は敷居が高いんですね。だからそれまでDairy Farm社で扱っていたのは、香港の輸入業者が日本の輸出業者から仕入れるという従来の流通によるものでした。
そのため、Dairy Farm社側も直接仕入れの経験がなかったんです。しかし、直接仕入れの形態だと産地の状況もよく分かるということで、だんだんと取り組みが定着していきました。そして、ようやく今、輸出が板についてきたところです。これからは大きく伸ばしていくことしか考えていません。
今後は、2025年度までに事業展開を5か国・地域に増やし、純売上高は20億円を目指します。さらに、2030年度には10か国・地域まで広げ、純売上高は50億円という目標を掲げています。100億円を目指したいのが本音ですけどね。
今は香港での販売がほとんどで売上は約13億円ですが、2023年度は18億円ぐらいまで伸ばしたいと目論んでいます。また、2023年11月からはシンガポールのDairy Farm向けにも輸出を開始しました。
課題は人材の確保
事業を拡大していく上で、一番の課題は人材の確保ですね。現在も人手が足りないような状況です。若い人にもぜひ来てほしいので、新卒採用を検討しているところです。
求める人材は、素直で誠実な人です。素直な性格の人は、最初こそ知識がなくても成長スピードがものすごく早い。さらに、明るい性格だと最高ですね。
輸出先と折衝するために、語学スキルは嫌でも身につけていくことになります。20~30代であれば、入社後でも勉強して吸収していけると思います。だから、入社時点での語学の能力はあまり問いません。
私は今まで何百人、何千人という人に会ってきましたが、能力が本当に足りない人はそういないと思うんです。ほとんどの人は一定レベルの能力があり、大きな差はありません。あとはその仕事にどこまで一生懸命取り組み、没頭できるか。そこで差がつくだけだと思います。
私自身も実感していますが、弊社の仕事はとてもおもしろいですよ。私たちの仕事の成果となるのは、いかに良い農水産物を提案できるかです。輸出が決まったら、できるだけ多くの量を安定して出荷できるように産地と打ち合わせをしていきます。各地を回って良質な農水産物を自ら開拓し、輸出まで結びつけるわけです。すごくわくわくすると思いませんか?
また、今後は国内の産地だけでなく、販売先の香港やシンガポール、台湾などにも行く機会があります。そういう意味でも、きっとやりがいは大きいですよ。
生産者がしっかり儲かる仕組みを
弊社では、日本食の豊かさを世界の人々に提供すること、そして日本農業の持続的発展に貢献することをロマンに掲げています。
九州の北部は自動車産業や半導体産業が盛んですが、南部は農林水産業が主要な産業です。すなわち、農林水産業の発展なくして九州全体の発展はありません。
弊社の設立当時、私は九経連の農林水産部長でした。九州の農林水産業の発展のためには何が必要なのか、JAなどとも一緒になって議論した結果、資金調達、販路拡大、人材育成、新商品開発の4つが大きな課題に挙がりました。資金調達に関しては国などがさまざまな融資制度を設けているので、特に経済界が貢献できるのは販路拡大だと考えたんです。
今後、日本では人口減少や高齢化が進むのに伴って需要も減少していきますが、一方でアジアの人口は確実に増加し、所得も増えていくと予測されています。だからアジアの需要を取り込んでいければ、九州の農林水産業の発展につながると確信しています。
最終的には生産者がしっかり儲かる仕組みを整え、次世代の後継者に経営をつないでいけるようにしていきたいですね。少しずつ貢献できつつあるとは思いますが、さらに輪を広げていきたいと思っています。
以前、九州を離れて働く人たちになぜ地元を出たのか尋ねたことがありますが、やはり稼げる仕事が少ないことが大きな原因でした。農林水産業の所得を上げ、後継者や若者にとって魅力ある仕事を増やしていくことは、地方創生に向けた一番の方策ではないでしょうか。
そして、その一番の近道が輸出だと考えています。今後、さらなるスピード感を持って事業を拡大し、売上高も100億円、200億円、300億円とどんどんアップしていきたいですね。
東北との連携もスタート
現在は東北地方の生産者とも連携し、東北産の野菜や果物の輸出にも取り組んでいます。
東日本大震災以降、九経連が東北への復興支援を続けていたため、もともと東北とはつながりがありました。そんな中、弊社が設立して3~4年目ごろに、サツマイモの茎や実が腐ってしまう病気が全国的に発生したんです。それまでサツマイモの輸出は順調に伸びていましたが、九州では焼酎の原料まで不足するほど病気が蔓延していました。
そこで、まだ病害に遭っていない産地を求めて東北を訪れた時に紹介されたのが、宮城県山元町にある「株式会社やまもとファームみらい野」でした。ここでは震災による津波で流された被災地を開墾し、その一部でサツマイモを栽培しています。輸出にはとても意欲的で、2021年には宮城産サツマイモの輸出を実現できました。
東北との連携により、九州では季節柄出荷が難しい農産物を輸出できることもメリットです。10~3月ごろまでは九州の野菜でOKですが、4月以降はどうしても暑さで野菜がだめになってしまいます。夏場の暑い時期に東北の野菜を供給する体制が整えばベストですね。
農水産物を輸出する場合、例えば英語表記に対応したパッケージを用意するなど、国内向けに出荷する場合と比べて手間がかかります。だから、強い意欲を持って取り組む産地でないとなかなかうまくいきません。
その点では、東北や九州南部は輸出にとても意欲的です。これらの産地は、農業産出額が国内1位の北海道や、大都市に近い関東、福岡などに比べるとどうしてもハンデがあります。しかし、国内向けでは厳しい条件にあるからこそ、やる気を持って輸出に取り組めるのではないでしょうか。
【URL】
九州農水産物直販株式会社の公式サイトです。
https://www.kyushu-amp.com/
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社名:九州農水産物直販株式会社
本社所在地:福岡県福岡市博多区博多駅前2丁目12-10 第7グリーンビル7F
設立:2015年
事業内容:農水畜産物やその加工食品の販売・輸出入業
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