株式会社ヤマチク 専務取締役 山崎 彰悟様

OEMから受賞もする自社ブランドへ。楽しんだ仕事が地元の誇りと自慢になる。

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今回は、 株式会社ヤマチク 専務取締役 山崎彰悟 様です。

【Profile】
株式会社ヤマチク
専務取締役 山崎 彰悟 

1989年生まれ。立命館大学法学部を卒業後、大阪のIT企業へSEとして就職し、銀行の顧客システム開発に従事。24歳で故郷の熊本県南関町に戻り、家業である株式会社ヤマチクに就職。OEM生産中心だった事業をリブランディングし、自社ブランド製品の開発に着手する。2019年にリリースした初の自社ブランドokaeriは、NY ADCやPentawardsなどの国際的なデザイン賞を受賞。60周年を迎える2023年11月には敷地内にカフェ併設型ファクトリーショップ『拝啓』をオープンする。

目次

竹の素材を活かす製品づくりひと筋、60年

ヤマチクは創業されて60年目を迎えます。一貫して竹の素材を活かした製品づくりに取り組んできましたが、いまから45年前に製造品目を竹のお箸に絞り込み、長らくOEMで事業を展開していました。

僕は初代から数えて三代目になります。小さい頃からいずれは家業を、と思いながらも大学卒業と同時にまずはIT企業に就職。その後、故郷に戻ってきました。そこであらためてヤマチクに入社するのですが…

驚いたのは「価値が正しく伝わっていない」ことでした。

ヤマチクには世界に誇れる仕事をしている職人さんがいます。切子さんや竹材屋さんなど竹箸製造に欠かせない存在にも支えられています。なのに彼らの給料が安く、仕事にやりがいを感じているわけでもない。我慢しながら重労働を強いられている。

この状況に、もどかしさを感じざるを得ませんでした。

要因はいろいろありますが、ひとつ言えるのは100%OEMに依存するビジネスモデルです。OEMにはOEMの良さがもちろんあるのですが、どれだけものをつくっても自分たちの名前は表に出ません。これでは仕事を通じて社会とのつながりを感じることは難しい。一方、職人さんや切子さんたちは自分たちの技術は当たり前のものだと思いこんでいる。表舞台で評価される機会がないからです。

もっとみんなの給与を上げたい。すごいですねと言われる仕事にしたい。家族から応援されるような仕事にしたい。同窓会で久しぶりに会った友だちに自慢できる仕事にしたい。そう思うといてもたってもいられなくなり、自社ブランドの立ち上げに踏み切ったわけです。

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OEMから自社ブランドへの転換

ブランド立ち上げから今年で5年目ですが、現在OEMとの比率は4対6と逆転しました。いちばんこだわったポイントは社員と一緒にブランドを磨いていったところですね。僕のような後継者が外からやってきてデザイナーと考えたプロダクトを仕様書とともに現場におろす…これではOEMと何ら変わりありません。

そうではなく、社員のみんなのブランドになるために、自分たちで考えたものが形になるプロセスが絶対に必要だと考えたんです。

当然、なにもかも未体験の取り組みですから試作もたくさん作りましたし、見るもの聞くものはじめてのことばかり。文字通りゼロからのスタートです。なかなか順風満帆とはいきません。

だけどそういうところからみんなで一緒に作り上げていくからブレない。自分たちが本当に薦めたいもの、贈り物として選びたいものに育っていくんです。

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そんな苦労の甲斐あって第一弾となるお箸『okaeri』は「Pentawards(ペントアワード)」や「ニューヨークADC賞」といった世界的なデザインアワードにおいて受賞するなど高い評価をいただくまでに。

さらにSDGsが一般化するタイミングもあり、竹の箸というサスティナブルな素材に注目が集まりやすくなっています。こうした社会情勢の後押しもあり、各メディアもこぞって取り上げてくれました。

アワードを獲ったりメディアに露出すると、国内はもちろん海外からの問い合わせも増えるんですが、売上への影響以上に大きいのが社員が友人や家族からすごいですね、って言われること。実はこれがいちばん大事なんです。

ちょうどいま賞に関わったメンバーのnoteが掲載されているんですが、ウチの初期メンバーのお子さんは東京に出張に行く母が自慢なんだそうです。かつてそんな仕事は南関町にはほとんどありませんでした。もちろんヤマチクにもなかったのですが、自社ブランドを創ることで仕事の幅を大きく広げることができた。それを社員の子ども達も感じてくれているわけです。

やっぱり働くことに対する価値観は親で決まると思うんです。ふと思い返すと僕、両親が仕事の話をネガティブにしているのを家で聞いたことがないんですよね。これが親が帰ってきての第一声がグチだったりすると、それを聞かされる子どもは働くことを負の感情で捉えてしまうようになる。ここをポジティブに変えることも僕がブランディングで目指すゴールのひとつなんです。

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“手紙”がコンセプトのファクトリーショップ『拝啓』

ブランド立ち上げ後は「大日本市」などの各種展示会や催事イベントへの出展を精力的に行ってきました。そういった活動を通じてあらためてわかったことが、自社ブランドの本質です。それまでは発注に沿ってものを作るだけで良かったのですが、これからは自分たちがつくりたい商品をつくり、伝えて届けるまでが仕事となります。

お箸というものは毎日使うけれど意識されるものではありませんよね。つくり手のことは誰も気にしない。極端な話、機能や経済合理性だけでいえば100均のお箸でいい。コンビニでもらえる割箸でもいいわけです。だけど、それでもつくりたいものがあるのなら、自分たちでその価値や魅力を発信していかなければなりません。

そこでファクトリーショップ『拝啓』をオープンすることに決めました。

店名は「手紙」というコンセプトに由来します。ポップアップで出店したとき気づいたんですがお箸を買う時、自分の分だけという人って意外と少ないんですよね。みなさん家族の分や大切な人への贈り物をじっくり選ばれる。

これって大事な人へ手紙をしたためるのと似ているな、と思ったんです。

だから『拝啓』ではお客様がお箸とスタッフとで思いを綴るような感覚でモノを選んでいただき、お店を出るときにはお手紙が完成するような空間にしたいな、と思っています。同時に僕らからお客様に綴る手紙のような場所にもしたい。

そのためにもカフェを併設して、実際にお箸をつかって食べ物をつまんだり、ほぐしたり、口に運ぶなど実際の使い心地を体感していただけるように設計しています。『拝啓』を起点に工場見学やワークショップ、さまざまなつくり手を招いた企画展なども展開する予定です。

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努力する人が必ず報われる仕事でなければ

会社を経営する上で大切にしなければ、と思うのは、社員が自分の仕事に疑いを持たずに働ける環境がなければいけない、ということですね。そうでなければいい仕事なんて絶対にできません。当然、給与も高いに越したことはありませんよ。でも同時に精神的な部分も満たされる必要があります。

やっぱりいい仕事をしているという自負と、それに見合った評価や報酬が得られること。会社だけでなく社会からもフィードバックがあるとベストですね。努力する人が必ず報われる仕事でなければならないと心の底から思います。

日本は森林面積が広くて、でも竹で山が荒れて社会問題化しているんです。いかに竹を切る人たちの仕事の公共性、社会貢献性が高いか。もはや公共事業と言っても過言ではありません。その人たちの頑張りをもっと認めてほしい。報われるとうれしいし、報われた人は他の人に報いようとするじゃないですか。このサイクルを生み出すことが良い社会につながるんだと信じています。

そのためにいち経営者として何ができるか、何をすべきか。常々考えています。竹を切る人、竹材屋さん、職人さん…彼らに何ができるのか。個人と社会をつなぐ媒体が会社だとしたら、これをどうマネジメントするかは経営者の仕事ですよね。

通常のビジネスでみると利益は売上からコストを引いたものです。でも僕にとっては人件費も仕入れもコストじゃない。目的そのものなんです。適正な利益と彼らへの対価を満たすためにどれだけの売上をつくれるのか。人件費と仕入れが目的化している僕の中ではそういう意思決定が多いですね。

経済活動だけでなく、どうすれば彼らの心が満たせるか。楽しんで仕事をしないと、いいものは生み出せない。そのためにどういう取り組みが必要か。それが経営者としての僕に課せられたミッションだと考えています。

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地域に根ざす会社として、雇用と誇りを生む

地場の企業である以上、まずは雇用をつくらなければなりません。加えて先ほども話しましたが仕事の幅を広げるべきですよね。それまでその地域にはなかった仕事をつくる。地元にやりたい仕事があれば若者が流出することもないし、戻ってくる可能性も高くなります。

ヤマチクなら福岡や大阪、東京にわざわざ出なくても見たことのない世界と繋がれる…そんなふうに思われる存在でありたいですね。

さらに地域の自慢になれるかどうかも大事です。たとえば地元がテレビに出ていたら全然関係なくてもうれしいじゃないですか。そういう感情ってすごく大切だと思います。南関町には高校がないので中学を出ると外の町に出ざるを得ないんですが、こういうおしゃれな箸をつくってる会社があって、と友人に自慢できる。南関町ってあの『拝啓』があるところ?なんて言われたり。

地域に根ざす会社は「雇用」と「誇り」を生み出すべきだと思います。

じつは南関町って福岡市内からも熊本市内からもクルマで1時間の位置にあるんです。九州を代表する都市を2つも抑えている商圏としてポテンシャルを秘めています。でもこれまでは「来る理由」がなかったんです。ならば、ということでイベントを企画したら人口9000人に満たない田舎に2000人も集まった。3日間で600万円ぐらいの売上を記録しました。大成功です。

やはり人が来るって地元民からするとうれしいんですよね。自慢になり、誇りになる。そういうものをつくっていこうと考えています。

『拝啓』もそのひとつ。資金面にしてもリソースにしても決して余裕がある中でやるわけじゃない。あくまで未来への投資なんですよ。5年後、10年後の雇用を生むことにつながるし、南関町に対する投資でもある。まさに未来への「手紙」です。

いま働いている人にとってはもちろん、今後10年、20年先の就労者にとっても魅力的な仕事を作っていく。地元の子どもたちが残ってやりたい仕事になっているかどうか。都会の人がこれは楽しそうだと興味や憧れを持って入ってきてくれる会社になっているかどうか。地域の発展と事業の継続性を同時に考えていく必要があると思っています。

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【URL】
株式会社ヤマチクの公式サイトです。

https://www.hashi.co.jp/

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社名:株式会社ヤマチク
本社所在地:熊本県玉名郡南関町久重330
設立:1963年
事業内容:竹箸の製造販売
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