リボン食品株式会社 筏 由加子社長

社員への熱い愛を胸に「理念なき理念経営」実践し、ユニークさを受け継ぐ。

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今回は、リボン食品株式会社 代表取締役社長 筏由加子 様です。

【Profile】
リボン食品株式会社
代表取締役社長 筏由加子 

1978年10月29日生まれ、大阪府出身。デンバー大学卒業後、米国でハイアットを含む3社に勤務。2005年リボン食品入社後、2012年に再入社。取締役開発部長、常務取締役を歴任し14年専務取締役に。専務時代にニューヨークの人気ブラウニー専門店Fat Witch Bakery 社とライセンス契約し『Fat Witch Bakery Japan』を設立。2018年代表取締役社長就任。2022年3月には第12回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞にて審査委員会特別賞を受賞。

目次

“日本初”をつぎつぎと生み出すパイオニア

リボン食品は創業が1907年(明治40年)という歴史のある会社です。これまでに数々の日本初の製品を生み出してきました。

まず創業時、日本で初めてマーガリンの製造販売に着手します。そして1965年にはコンパウンドマーガリンを、70年にパイメーク、73年に冷凍ホットケーキ、79年に冷凍デザートケーキを発売。これらもすべて日本初なんですよ。

それぞれの製品が生まれる背景は基本的にお客様の声がきっかけ。レストランのシェフやパティシエ、パン屋さん、デパ地下に出店される洋菓子店さんなどさまざまな「食」に関わるお客様のお困りごとに耳を傾け、どうしたら喜んでいただけるかを考えてきました。そこにユニークさと確かな技術が加わり、結果としてたくさんの日本初につながったのです。

現在はマーガリンをはじめとするあらゆる油脂や冷凍のパイ生地、焼成タルトといった業務用商品を中心に一部でBtoCブランドも展開しています。

低糖質食品を開発・販売する『低糖工房』は一人の役員が手をあげたことがきっかけで立ち上げたブランドです。『Fat Witch Bakery Japan』は私が専務時代にニューヨークの人気ブラウニー専門店とライセンス契約を締結。通販のほか国内2店舗を構えています。また『Minotte』は2年目を迎えたばかりの新規事業で、妊活・産前産後での悩みを持つ女性を「食」を通してサポートするブランドとして着実に成長中です。

「跡を継ぐ」と覚悟を決めた2度目の帰国

私はいま4代目の社長として経営に取り組んでいますが、次女だったこともありもともとは会社を継ぐつもりはありませんでした。大学を卒業後に渡米し、ホテルやレストランのマネジメントが学べる大学に入学。そのままアメリカのホテルに就職します。

実は27歳で一度帰国し、リボン食品に入社したんです。ただそのときはあまり上手くいかなくて、3年で再び逃げるようにアメリカへ。旅行会社やコンピュータ周辺機器の会社で働き、それなりに充実した日々を送っていました。

転機は33歳のとき。アメリカでは労働者は明日クビになるかもしれないという環境で働きます。わたしも毎週金曜に解雇される人を見てきました。そして、その渦中で頑張っている自分を振り返り、他人の会社でこんなに必死なんだから自分の会社ならもっと必死になれるんじゃないか、と思ったんです。

さらにアメリカは歴史の浅い国です。資本の論理で経営主体も次々と変わっていきます。それに比べて長く続くヒストリーとユニークなストーリー、そして何より素晴らしい従業員に支えられてきたリボン食品はなんて魅力的な会社なんだろう、とあらためて思いました。

そこで覚悟を決めて一時帰国したある朝。自分から父に「会社を継がせてください」と伝えました。父はひと言「わかった」とだけ口にしましたが、ちょっとうれしそうでしたね。鼻歌を歌いながら仏壇に向かっていく姿を覚えています。

「理念なき理念経営」を実践

わたしが経営の上で大切にしているのは、誰もがやりたいことにチャレンジできる場をつくる、ということです。会社としてチャレンジしやすい雰囲気をつくり、それに手をあげる人たちを集める。さらに周囲がサポートできる状況を整えて、たとえ失敗したとしても何かを掴んで次のチャレンジにつなげる。そういう環境をつくるのが全てですね。

実はリボン食品には明文化された理念がありません。わたしが代表に就任した頃には理念経営が流行っていたんですね。最近だとパーパスがもてはやされてますけど。その時に父と話し合いをしたんです。「いま会社に入ってくる人は理念を知りたがるからつくるべきでは?」と。

すると父は「それは違う」とひと言。リボン食品の良さはユニークさにある。ユニークなものをつくるには柔軟であるべきだから、明文化されたものがあるとそれが固定概念になる、と。わたしはなるほどと思いながら、だったら、と固定化しない「理念ワード」探しをはじめたんです。

リボン食品は一体何を大切にしているのか。それらを探した結果、「ユニーク」や「半歩先」「ホスピタリティ」などたくさんのワードが出てきました。社員のみんなにはこのワードの中からどの組み合わせでものをつくってもいいからね、と伝えています。

パズルのピースを埋めるのではなくて、レゴみたいな発想で。AさんとBさんがそれぞれつくったものを組み合わせたら思いもよらないユニークなものが生まれた…そういう柔軟性に富んだ会社でありたいんですよね。明文化された理念がないだけで、きちんと理念はある。わたしたちは理念なき理念経営を実践していると思っています。

社員への愛が熱すぎて

新社屋を建てるとき、珍しく父と意見がぶつかりました。「メーカーがお金をかけるべきは工場や設備投資」と唱える父に対して私は「機械を動かすのは人だから社員が気持ちよく働ける環境を」と主張しました。

もともとリボン食品は従業員を大切する家族的経営の会社ですが、わたしも学生時代に思ったことがあります。それが「いまの自分があるのは全てリボン食品に携わってくれた人たちのおかげだ」ということ。そうするともう、ありがたいしかなくなるんですよね。それ以来、現在に至るまで社員への愛が熱すぎて(笑)。

手前味噌ですがリボン食品の社員っていい人ばっかりなんですよ。退職した人でも現社員と仲良くかかわっていたりして。いろんな理由で会社を離れるんですがそれでもリボン食品の動向を気にしてくれているんです。そのような方々が今でも関わってくれているというのはいい人たちの集まりってことでしょう。

自分が会社を経営していく中で、頼りないわたしをみんなが支えようとしてくれていて、それがわかるんですよ。すごくありがたくって…もう大好きです。でもみんながわたしを好きかどうかはわかりません(笑)。片思いかもしれないですね。

父も祖父もカリスマ性のある経営者でした。わたしもそうなれればよかったのですが女性ですし、家庭との両立もあって頼るところは頼らざるを得ないんです。もしかすると時代にはフィットしているのかもしれませんけどね。

目立たない黒子から目立つ黒子へ

『Fat Witch Bakery Japan』事業もある意味、社員への想いが色濃く出ているかもしれません。長らくBtoBメーカーとして歴史を刻んできたリボン食品。父の考えとしてはあくまで原料をつくる会社だから表に出る必要はない、というものでした。でも母は「リボン食品ももう少し知られるようになると社員も喜ぶんじゃない?」ということを言っていて。

確かに働いている側は何をやっているかわかっていても、ご家族、特にお子さんからするとお父さんやお母さんの会社がもう少し有名だとうれしいんじゃないかと思ったんです。もちろん社員にとっても誇りが持てたり励みになったり。ひとつぐらい裏ラベルに「リボン食品」と書いてある製品があってもいいんじゃないか、という気持ちが湧いてきました。

それが『Fat Witch Bakery Japan』の実店舗展開につながったわけです。ただし裏方に徹していたリボン食品がはじめてリアルショップを出すことには葛藤がありました。お客様からすると商売上のライバルになりかねないわけですからね。

だから一人ひとりのお客様のもとをまわって丁寧に説明しました。わたしたちが直接エンドユーザーの声を聞くことは必ずお客様にとってのプラスになりますし、決してライバルではございません、と。そのとき多店舗展開もしないと、お約束しました。ですから日本における『Fat Witch Bakery』は2店舗のみなんです。

黒子は黒子でも目立つ黒子になる。これはわたしの経営方針のひとつです。「150年、200年続く会社」「ホスピタリティ」そして、「目立たない黒子から目立つ黒子へ」…これだけが父が掲げてきた方針と異なるんですよね。

常に新しい可能性に挑戦し続ける会社

「5年後、10年後のリボン食品がどのようになっているか」を考えた時に、私はきっとBtoC事業で更にいくつか事業を立ち上げていると思います。まだまだいろんな可能性にチャレンジしてみたい。リボン食品は常に新しいことに取り組んでいる会社でありたいと思っています。

BtoCの新規事業の中で1つでも大きく育つものができれば、今度はその蓄えやノウハウをBtoB事業に還元して、そこでも新しいことに挑戦していきたい。やはりリボン食品はBtoBのお客様があってこそ。BtoBのお客様を支えるのが使命ですから。

あとはグローバル展開も視野にいれています。アジア、欧州、アメリカなど世界に目を向けるとマーケットはまだまだ広大です。常にわたしの念頭にあるのはいま頑張ってくれている社員を雇い続けることの出来る基盤づくり。それには国内消費のみに頼る売上・利益だけでは限界があります。

また10年後はまだ娘は跡継ぎにはなっていませんが、わたしが彼女にバトンを渡す頃には「女性経営者が当たり前の社会になっているといいな」と思います。

今、わたしが多くの場所で取り上げてもらえるのは珍しいからなんですね。ありがたいのですが、これを変えていかないと。多くの女性が社会進出を自然にできる世の中づくりを社業を通じてできればと考えています。

最後に、リボン食品が求める人物像をお話します。まずは「ユニークな人」。パイオニアになるには旺盛な好奇心は必須です。つぎに「思いやりのある人」。家族的経営ですし、お客様に寄り添う会社でもあるので、社内外問わず心の温かい人であってほしい。そして「一生懸命物事に取り組む人」。小さな挑戦にも一生懸命な人はたとえ失敗しても何かを掴むもの。この3つを備えた方と一緒に働きたいと思っています。

【URL】
リボン食品株式会社のサイトです。
https://www.ribbonf.co.jp/

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社名:リボン食品株式会社
本社所在地:大阪府大阪市淀川区三津屋南3-15-28
設立:1907年(明治40年)
事業内容:マーガリン製造販売/パイ冷凍生地及びパイ関係食品製造販売
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