木村石鹸工業株式会社 木村祥一郎社長

「社員がいちばん自慢できる会社になる」をビジョンに、“特徴”を探り追求し続ける。

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今回は、木村石鹸工業株式会社 代表取締役社長 木村祥一郎 様です。

【Profile】
木村石鹸工業株式会社
代表取締役社長 木村祥一郎 

1972年大阪府八尾市生まれ。1995年に大学時代の仲間数名と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 イー・エージェンシー)を立ち上げる。以来18年間にわたり商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月にイー・エージェンシーの取締役を退任し、家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。現在に至る。

目次

100年近く釜焚き製法を続けている理由

 木村石鹸は大正13年(1924年)創業の石鹸メーカーです。製品構成の8割を占める家庭用洗剤の中でも、新たな事業の柱として立ち上げた自社ブランド製品「SOMALI」が好調でした。それからヒット商品のヘアケアシリーズ『12/JU-NI(ジューニ)』をはじめオリジナル商品を続々と開発しています。

▼木村石鹸の自社ブランド通販サイト「くらしの丁度品店」
https://store.kimurasoap.co.jp/

当社にはたくさんのこだわりがあるのですが、そのうちのひとつが手作業による釜焚き製法を守り続けていること。釜焚き製法でつくった石鹸で製品をつくっているメーカーは日本国内でも数少ないと思います。

石鹸は東南アジアなどの海外から仕入れることもできます。品質も悪くないし手間もかかりません。それで多くの企業は自社で作るのをどんどんやめているんです。

それでも僕らが自社製造を続けているのには大きく2つ理由があります。ひとつは先代である親父が石鹸づくりが好きだったこと。社内にはやめたほうがいいんじゃないかという声もありましたが、親父はやめるなと。釜焚きには職人の経験や勘が必要です。一度やめてしまうと職人の育成や経験を積む場も失うので、復活させるのが非常に難しくなるんですね。

そしてもうひとつ、石鹸という製品は歴史も古く、成熟しています。ましてや海外から購入している会社がほとんどなので、みなさんあまり手を加えたりしないんですよね。でも僕らは自分たちで作っているので石鹸そのものをチューニングしたり工夫したりといったチャレンジがしやすい。これは大きな強みなんじゃないかと。

石鹸という歴史もあり、安心してお使いいただける原料を上手くつかっていろんな洗剤や洗浄剤をカスタマイズして作れるという点が木村石鹸の特徴。だからこそ、たとえ非効率だとしても釜焚きにこだわり、続けていくべきと考えているんですね。

ものづくりとマーケティングと社員の人柄と

木村石鹸は僕で四代目になるのですが、子どもの頃から家業を継ぐつもりは全くありませんでした。ですから大学在学中、先輩に誘われたのをきっかけにITベンチャーを起業。その会社では18年ほどマーケティングや商品開発に携わっていたんですが、面白かったですね。親父からの声がけがなければずっとやっていたと思いますよ。

声がかかったのは2回です。親父が体調を崩して会社の代表を長年一緒にやってきた工場長に譲ったんですが、5年ほどで組織が上手く回らなくなりました。その時が1回目。業績こそよかったものの会社がおかしくなって、社員たちから戻ってきてほしいと親父に直談判があったんですね。そこで僕の元にも「手伝ってくれ」と話がきました。

ただその時は手伝う気はありませんでした。それで知人の経営者を紹介したんです。その方は外資系化粧品メーカーの社長を退任されていて、キャリアの最後は中小企業の立て直しに尽力したい、とおっしゃっていた。ちょうどいいんじゃないかと思いました。親父ともウマが合うようで、良かったなと。

ところがその方も上手くいかず、結局2年ほどで頓挫してしまいます。外資系出身らしくさまざまな制度や評価システムを導入したのですが、町工場の人たちにはフィットしなかったみたいで……ベテランが数人辞めることになってしまいました。紹介した手前もあり、この時の親父からのヘルプはさすがに放っておけませんでした。

ただし常務として入り、経営を立て直したのちに誰か経営を任せられる人材を起用して自分はふたたびITの世界に、というつもりでした。できれば3年、長くても5年ぐらいで、と目論んでいたんです。

ところが、実際にものづくりの現場に入って驚きました。OEMとはいえ自社で開発から製造まで手掛けて、その商品を生協さんが販売してくれて、エンドユーザーである一般のお客様がすごく喜んでくださる。この一連の流れと事実に、僕はびっくりしたと同時に目が醒めたんです。これまで家業の素晴らしさを全くわかっていなかったんだな、と。

加えて、ITベンチャーの時は顧客の商品のマーケティングやプロモーションを支援していたのですが、自分の会社でそれができることの楽しさを知りました。それまではどんなに面白い企画でもお客様から「前例がない」と言われたら引っ込めるしかなかったのですが、自社ならやりたいようにできます。

そして、社員がとてもいい人ばかりでした。もともとITベンチャーは気の合う仲間同士でつくった会社。人間関係もよく、居心地のいい環境でした。木村石鹸にそれを求めるのは無理だろう、と諦めていたんですが、中に入ってみたらすごくいい人たちの集まりでした。

戻る前は多少の反発も覚悟していたんですよ。ところがすごくウェルカムだった。社員からするとそれまでの7年間ぐらいは暗黒時代だったようで「やっと親父のやり方がわかってくれる身内の人が帰ってきてくれた」と。本当に歓迎してくれました。おかげでやりやすかったですね。

正直であることと相手を信頼すること

2013年に入社し、代表取締役に就任したのは2016年です。経営する上で大切にしている考え方は「正直であること」。お客様にも社員に対しても、また会社としても自分自身も正直でありたい。後ろめたい仕事をしたくないんですよね。

石鹸メーカーの多くは自社の商品の安全性を訴求するために「合成界面活性剤」を敵にして天然ものや純石鹸であることをアピールします。そうしたキャンペーンが功を奏して消費者のみなさんもつい「合成界面活性剤」と聞くと悪いものだと想起しがちです。

でもそんなことはありません。合成界面活性剤にもいいところがあります。逆に純石鹸にもいいところだけでなくそうじゃないところもある。だから僕らはきちんと科学的な根拠に基づいて良い悪いを判断し、情報をオープンにしています。メーカーの一方的なポジショントークでお客様が誤解しないように。

親父からは経営について特に引き継いだことはありません。ただし「これはやるなよ」と言われたことはあります。そのひとつが「社員を監視するな」です。工場にカメラをつけたりすると信頼関係が崩れるぞ、と。親父なりの言い方で社員を信じろと伝えたかったんだと思います。

正直であることと相手を信じるということは表裏一体だと思います。後ろめたいことを社員にさせたくないし、自分もしたくない。そういう意味では親父と僕はスタイルこそ違えど、同じ考え方なのかもしれません。

実際に「社員を信じて任せる」やり方で成功した事例はたくさんあります。会社のメインブランドとなった『12/JU-NI(ジューニ)』もそのひとつ。多胡という社員が入社から5年かけて完成に至ったヘアケア商品なのですが、もし彼を信じることなく途中で研究を止めていたら、いまの自社ブランド事業はなかったでしょう。

実はうちの会社では商品開発に対するリスクってあんまりないんですね。大掛かりな機械も不要だし、金型をつくるわけでもない。1アイテム立ち上げるのにさほどお金はかかりません。だから新商品を出すかどうかの意思決定に時間をかけるよりも、作りたいと思った人が熱意ある状態で作って、あかんかったらすぐやめたらいいと思っています。

むしろメーカーにとって難しいのは、はじめの一歩。こんな商品を作るんだ、と踏み出すところが圧倒的にハードルが高いんです。だからそれをやってくれる社員がいるなら応援すべき。うちでは常に自分で作りたいものを作っていいよと言っています。

大手だと1つのアイテムを作ったとして売上1,000万円では失敗でしょう。巻き込む人も多いから事業計画を練って成功確率を上げないといけませんよね。でも僕らなら一人二人で作ってしまえるし、1,000万円売れたら万々歳なわけです。失敗のリスクが極めて小さい。やらないと損というのも僕らの強みの1つかなと思います。

特徴がないのが特徴の街、八尾

うちの会社があるのは大阪府の八尾という街なんですが、もともと何もない土地なんです。僕も八尾に対して全く興味ありませんでした。この街にある主要な会社の人たちも同じ。なぜかというと特定の産業の集積地じゃないんですね。

新潟燕三条なら金属加工、岐阜の関市なら刃物、福井鯖江なら眼鏡というように産業が集積すればそれがアイコンになるし業界団体が生まれることもあります。でも八尾は分散しているんですよ。金属も樹脂もゴムも化学も板金屋もなんでもある。ゆえに特徴が全くない街でした。各業界の人たちは八尾にたまたま拠点があるだけだったんです。

ところがあるきっかけから八尾の企業と行政と大学と金融機関と組んで『みせるばやお』という団体会社をつくり、オープンイノベーションの場として協働で教育事業などをはじめることになったんですね。そうやって集まってみたら利害関係のない者同士お互いさらけ出せて、すごく面白かった。みんなめちゃくちゃ仲良くなったんです。

すると「八尾って意外とすごいな」という発見がある。同じように三代目や四代目が会社立て直しに奮闘中の事例もたくさんある。そして実際の活動を発信することで八尾がメディアに取り上げられる機会が増えていきます。八尾のことを知る人が増えると参加メンバーも楽しくなって、いまでは仲間うちでの取り組みがやたら盛り上がるようになりました。

八尾だからできた、ということではなくて、もともと八尾では何もできないと思っていたのが逆に特徴となり、上手くハマったわけです。

地域で集まって何かに取り組むメリットはすごく大きいですね。たとえば新卒採用。各社採用したとしても1名か2名ぐらい。社内に同期はいないわけです。でも八尾内で「新人会」を立ち上げたので、全然違う業界の同期が10人も20人もいることになる。これは新人にとっても会社にとってもいいことづくめなんですよね。

こうした実際の取り組みを発信すると採用力も高まります。お隣の大阪市の営業所にもひけを取らない母集団形成ができたり、ある会社は溶接技術者の募集に350人も集まったり。自社単独ではありえなかった現象でしょう。みんなで集まって活動することで発信力が上がり、ひいては採用力にも好影響を及ぼしているんですね。

社員がいちばん自慢できる会社に

地方の中小企業が人材採用を成功させるには、なんといっても自社の魅力をつくることです。人が集まらないとか優秀な人が来ないと言う前にまず自分たちの会社をいかに魅力的に磨くか。若い人が働きたい、と思える会社にする努力なしに採用活動をがんばっても意味がないと思います。

加えて魅力があっても伝わっていないケースもよく見られます。会社の魅力は求人票だけでは絶対にわかりませんから、きちんと発信する必要があるんです。当たり前のことですが、でも案外やっていないところが多いですね。

木村石鹸では新卒採用をはじめてから3年目までこちらからオファーをかけるスタイルの採用活動でした。いわゆるダイレクトリクルーティングですね。4年目からはTwitterだけ。このやり方で7年目です。いまも採用チャネルはSNSだけですよ。

大手企業なら広く集めてその中から優秀な人を選べるでしょう。でも中小、しかも地方では選べるほどの応募はきません。さらにその中に求める人材がいて、なおかつマッチする確率は極めて低い。だったらこちらから声をかけよう、というのがそもそもの背景ですね。

しかも3年目までは僕が最初に声をかけていました。そこそこメディアにも露出していましたし、社長から声をかけられたら反応するのでは、と。しかも直接、僕の言葉で会社の魅力を伝えることができます。当然ながらマッチング精度も高くなるわけです。

今後のビジョンについては、木村石鹸はこういう社会をつくっていくとか、こういう価値を提供しようといったものはないんです。掲げているのは「社員がいちばん自慢できる会社になる」ということ。社員が自信をもって木村石鹸がいちばんいいと自慢できる会社ですね。そして自分の子どもや大切な人にも入社してもらいたいと思える会社。

そうなるためにはどんな事業、どんなビジネスがいいかを走りながら模索しているのが木村石鹸です。だから採用の際も能力を求めるというより人柄重視ですね。人として気持ちいい、一緒に仕事がしたくなる人たちを集めたい。いろんな場面であの人がいてくれたらいいな、と思われる人がたくさんいる会社っていいと思いませんか?

【URL】
木村石鹸工業株式会社の公式サイトです。

https://www.kimurasoap.co.jp/

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社名:木村石鹸工業株式会社
本社所在地:大阪府八尾市北亀井町2-1-30
設立:1924年
事業内容:家庭用洗剤の製造販売、バレル研磨用コンパウンドの製造販売、業務用洗剤の製造販売
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