神戸マッチ株式会社 代表取締役 嵯峨山真史様

「感動こそ人生」~マッチ型お香「hibi 10MINUTES AROMA」開発秘話~

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今回は、神戸マッチ株式会社 代表取締役 嵯峨山真史 様です。

【Profile】
神戸マッチ株式会社
代表取締役 嵯峨山真史
1968年兵庫県生まれ。1991年に関西学院大学法学部を卒業し、日本コダック株式会社に入社。1999年神戸マッチ株式会社に入社し、2010年代表取締役に就任。2011年夏より、株式会社大発と着火機能付きお香の開発に着手し、2015年4月に着火機能付きお香 “hibi 10MINUTES AROMA” を発売。伝統産業技術の融合により生まれた新感覚で楽しむお香 hibi の製造、マーケティングの責任者として活動している。

目次

マッチをルーツに、マッチ型お香「hibi 10MINUTES AROMA」を開発

弊社は1929年にマッチ製造会社として創業した会社です。現在でもマッチを製造・販売していますが生産比率は10%程度で、2015年に販売を開始したマッチ型お香「hibi 10MINUTES AROMA」が80%以上の比率を占めています。

「hibi 10MINUTES AROMA」は神戸にあるデザイン事務所TRUNK DESIGNのクリエイティブディレクター堀内さん、淡路島のお香メーカー大発(だいはつ)の代表・下村さんと協力して作り上げた商品で、3年半かけて開発しました。マッチを擦るように火をつけると、約10分間香りを愉しむことができるお香で、2019年にはGOOD DESIGN AWARDグッドフォーカス賞を受賞しました。今では世界30カ国以上に展開している、弊社の主力商品です。

私が神戸マッチ株式会社の代表取締役に就任したのは2010年。先代からは「入社してすぐに、この先絶対マッチでは飯食われへんぞ」と言われていました。

何か新規事業を始める必要があるということで、まず始めたのがバスラッピング事業。元々マッチの印刷をしていたこともあって、社内に印刷の技術があったんですね。そのノウハウを使って、当時このエリアではほとんど知られてなかったバスラッピングを先駆者として始めたというのが私が入社して最初に立ち上げた事業です。

2011年に「hibi 10MINUTES AROMA」の開発に着手するのですが、様々な方にご協力いただいて、発売後もクチコミで広げていただけたのは、我々の企業の理念や開発ストーリーに共感していただけたからだと思っています。
弊社はマッチをルーツにしている会社で、マッチ産業が斜陽になって、業績は赤字のどん底。でも諦めず、マッチの技術を使った新たなプロダクトを作って、マッチのルーツを残していくというストーリーがマッチ会社らしくて、そこにユーザーさんやバイヤーさんが共感してくれたから広まっていっているのかなと。

マッチ型お香「hibi 10MINUTES AROMA」開発秘話

マッチ型お香「hibi 10MINUTES AROMA」を一緒に開発したクリエイティブディレクターの堀内さんとは2009年に出会いました。

当時はレトロブームで昔のデザインのマッチを小口で作ってみようと考えていたタイミングでした。出入りの印刷機材の商社さんに、デジタルプリンターでプリントできないかリクエストを出したところ、その担当者さんが堀内さんの義理の父だったんですよ。それで堀内さんに話がいきまして、話を聞いた瞬間堀内さんはビビッときたらしく、会うことになりました。それでスタートしたのがマッチデザインファクトリーというブランドです。

マッチの昔の図柄を使ったデザイン雑貨を作ろうという目的で立ち上げまして、レトロな図柄のマッチとか、Tシャツとか、トートバックとか、チャームとかいろいろな展開をして、マッチデザインの雑貨ブランドを作ろうと始めたのがマッチデザインファクトリーです。マッチに新しい価値を載せながら、マッチを復活させるために活動していこうと、新規事業とは別軸で立ち上げました。

結論としては、工場のマッチの生産減少を補うだけの規模にはできませんでしたが、通常1個20円のマッチがデザインやコンセプトを変えて付加価値をつけると、1個120円でも売れるという学びがあり、この学びが後のマッチ型お香「hibi 10MINUTES AROMA」のマーケティングに繋がっていきます。

一方で、新規事業を立ち上げる必要があったので、そのタイミングで原点に返って、自社の強みはなんなのかリフレーミングしました。原点回帰すると、結局うちのオリジナルの技術は着火技術しかないと。そこで新しいマッチを作るのではなく、着火技術を活かして何かできないかと発想を変えて考え始めたんです。

元々、淡路島がお香の産地だということを知っていて、アイディアとしては以前からあったものです。しかし、開発着手までは至ってなかった。じゃあ、製品化すればまだ世の中にないオンリーワンの商品になるなと思って、開発を決意しました。そこからは意外と早く進んでいきました。

お香メーカーのパートナーを探さなきゃいけないということで、九州の問屋さん相談をしにいったところ、淡路島のお香メーカー大発さんであればそういったチャレンジにも乗ってくれるんじゃないかということで、大発の下村さんをご紹介いただきました。

2011年の夏に下村さんに会いまして、擦っても折れないお香を作ってほしいという話をしました。後から聞いた話では、下村さんは、お香って折れるものだし、それをマッチする強度を持たせて、ちゃんと香りを放ちながら燃えていくようにするのはそんなに簡単ではないと思ったらしいんです。。

ただ大発さんも将来を考えたら違うマーケットに、自分たちの持ってる技術を生かしてプロダクトを作っていきたいとは考えていたこともあって、やってみましょうとプロジェクトがスタートしました。

プロダクトコンセプトで決めた重要なポイントは「レトロ感を出さない」ということです。レトロなものが好きという方もいらっしゃるのですが、割合としては少ないので、日常の中にあっても違和感のないようなデザインにしようということをクリエイターと最初に決めました。

価値を下げずに流通させる

商品を広めていくうえで決めていたことは2つありました。1つは従来の問屋さんには卸さないこと、もう1つは価格が高くても売れるようなものを作ることです。この2つが欠けていると、どうしても薄利になってしまって、社員さんに対し、十分な処遇が還元ができないので。そうするともうオリジナルブランドを作って、直接売るしかないわけですよね。

流通に関しては、価値を下げずに流通させるということを考えていて、2015年に展示会に出したり、東急ハンズさんに置かせていただいたりというところから始めていきました。

そうしているうちに、デザイン系の展示会の主催者さんから「うちのイベントに来るバイヤーさんに絶対ハマるので出しませんか」と言われ、2015年の10月に東京タワーの下で開催されたBATOMAという展示会に出展させていただきました。有名なインテリア会社とか、化粧品のブランドさんなんかが出展しているような展示会で、そこでプロモーション動画を流していたら、蔦屋書店のバイヤーさんが目をつけてくれて、蔦屋書店さんとの繋がりがスタートしました。

蔦屋書店さんにはずっと売っていただいているのですが長く同じ商品を置くということは基本的にはないらしく、バイヤーさんの間では「蔦屋の奇跡」と言われていると聞いたこともあります。
私としてはまず国内を固めてから海外展開と考えていたのですが、海外展開支援の専門家の方からなぜ同時に展開しないんですかと言われ、2016年1月には「メゾン・エ・オブジェ」というパリの展示会に出展することになります。言われなかったらおそらく1年か2年経ってから海外に出ていたと思うので、「hibi 10MINUTES AROMA」は本当にご縁で作られて、ご縁があって流通していったという印象です。

それから国内では、青山フラワーマーケットさん、URBAN RESEARCH(アーバンリサーチ)さんといったブランドさんとコラボさせていただき、海外はコロナで一時期ストップしましたが、4年ぶりに2023年はパリの展示会に出展し、2024年1月にはフランクフルトの展示会にも出展する計画です。

海外は長らく私ひとりでやっていたのですが、2年前に英語を話せる女性スタッフが入ってくれて、今ではほとんど彼女が外部とのやりとりを担当してくれています。会社としてはそういった次の世代が主役になるステージが少しずつできつつある状況です。

感動こそ人生

「感動こそ人生」というのが私の考え方の根幹にあります。感動するためには、自分に負荷をかけて、新しいことにチャレンジしていかなきゃいけない。 それを達成した時に、やっぱり感動があって、自分を承認できたり、自分のスキルが高まったり、喜びを感じられたりすると。

そういったことを繰り返す中で、自分たちが幸せの階段を1歩1歩上がっていけるんだと思っています。だからまずは感動が原点にあります。お客様の期待を超える満足にこだわって、お客様に感動していただくと。この「感動」というのが私たちの意思決定の基準となっています。

昔はこういった思想があまりありませんでしたが、人生哲学が企業理念になり、理念がプロダクトに反映され、それが社員さんに伝わり、お客さんに伝わっていき、という流れだと思うので、人生哲学は大事だと思います。理念ををつくり、浸透させ、コミットして貫くこと、それが会社として一番大事だと今は思っています。

社内向けの合言葉としてはシンプルに「売り上げよりもブランド」と言っています。最初は特に営業の人なんかは、売り上げが上がるのになぜ売らないのか意味がわからないと言っていましたが、ブランドが崩れるような売り方は一切しないと言い続けています。

「神戸マッチコーポレートカルチャースタンダード」というクレドも作りまして、改訂中なのですが、そういったもので価値観の統一もはかっています。明文化しておくと、無駄なやりとりを減らすことができるわけです。あとは採用活動で、クレドを読んでもらって賛同できたら選考を進んでくださいとしていこうと思っています。価値観に賛同できないのであれば違う会社を探した方がいいと思うので。

改訂中というのは、クレドを作って配った後でアンケートを取っていて、これは実態とあってないとか、これの意味がわからないとか、 こういうものを足してほしいとか、そういった意見を吸い上げて、全員参加で作るという形にしたいという話でして。一方的に与えられるものではなく、自分が制作に入って、当事者意識を持つというのが大事だなと。

ローカルブランドの成功例として勇気を与え続ける

今後は地域のブランディングに貢献できるブランドとして、世界に認知されるようなブランドということを目指しています。ローカルブランドの成功例として、次の世代が世界に出ていく時に一歩踏み出す勇気を与えられるようなブランドであり続けることが、うちが今やれることかなと思っています。

いたずらに規模を拡大するのではなく、オンリーワンのブランドで共感いただいてるファンの方と共に、ブランドをしっかりと未来に残していきたいなと。

ですので、そういった価値観、ビジョンに共感してくださる方に入社していただきたいです。

弊社の採用基準は大きく分けて5つあります。

  1. 当社の価値観、ビジョンに共感し、賛同する人

  2. 素直な心を持つ人

  3. 探求心、向上心を持ち、学ぶ姿勢がある人

  4. 感謝の気持ちがある人

  5. ポジティブな思考を持ち、主体的に変化に対応できる人

引き出しが少ないうちは、まず素直にやってみて引き出しを増やしていくことが大事だと思っています。そのうえで探求心、向上心を持って学ぶということをしないと、成長できないと思うので。
あとはやっぱり感謝の気持ちがある人に入ってほしいです。感謝される人より、感謝できる人になってほしいなと。例えば今回のようにお話しする機会をいただけていることにもやっぱり感謝。感謝力に勝る能力はないかもしれないですよね。

うちの行動規範で一番大事なのは当事者意識なので、ポジティブな思考を持ち、主体的に変化に対応できるという点も重要です。環境のせいにしない。人のせいにしない。できない理由を言うのではなく、当事者意識を持って自分ができるにはどうしたらいいかを考える。古い会社だからこそ、目的を達成するために変わらなきゃいけないんだったら、積極的に変われる人が必要だと思っています。

【URL】
神戸マッチ株式会社の公式サイトです。
http://kobe-match.co.jp/splash/

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社名:神戸マッチ株式会社
本社所在地:兵庫県揖保郡太子町鵤414
創業:1929年5月
事業内容:オリジナル製品『着火機能付きお香』の製造、マッチ・ポケットティシュの製造、屋外広告の企画・制作・施工、印刷
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