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今回は、稲とアガベ株式会社 代表取締役社長 岡住修兵 様です。
【Profile】
稲とアガベ株式会社
代表取締役社長 岡住修兵
1988年生まれ、福岡県北九州市出身。神戸大学経営学部卒業。2014年から新政酒造(秋田県秋田市)で酒造りを学び、2018年に退社。その後、秋田県大潟村の自然栽培のパイオニア農家の下でお米づくりを学んだのち、東京都・木花之醸造所で初代醸造長を務める。2021年、秋田県男鹿市にて「稲とアガベ醸造所」を創業。2023年現在はショップ・レストランの運営、発酵マヨの製造・販売、一風堂とコラボしたラーメン店「おがや」の運営と事業の幅を広げている。
「クラフトサケ」というお酒の新ジャンルを確立
弊社はクラフトサケ(※1)醸造所を中心に運営している会社です。また「土と風」というショップ&レストラン、発酵マヨの製造・販売をするSANABURI FACTORYという食品加工場&ショップを運営しており、2023年7月には一風堂さんとコラボをしてラーメン店「おがや」もオープンいたしました。
(※1)日本酒の製造技術をベースとしたお酒、または、そこに副原料を入れることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒
クラフトサケは弊社が確立した新ジャンルのお酒です。日本では日本酒の製造の参入規制があって、新しく醸造所を作っても日本酒を作ることができません。クラフトサケは日本酒の製造技術をベースにしていますが、法律上は「その他の醸造酒」なので日本で製造、販売することができているんです。
参入規制があったおかげで業界が守られてきたのであればいいのですが、日本酒を製造できる免許の数も毎年減っていて今では実質1200場くらい。日本酒の市場は1973年をピークに今では3分の1以下と、市場規模も減っています。
逆に今では海外の日本酒醸造所が増えていて、アメリカだけで50以上。このまま日本の法律が変わらないと、どこかで日本酒醸造所の数が、日本より海外の方が多いといったことになってしまう可能性もあります。
法律を変える話は具体的になりつつあって、内閣府さんに国家戦略特区という形で提案書を提出していて、正式提案として認めていただいているので、今、国が動いてくれてる状態です。
事業をすることで雇用を生んで、ステークホルダーを全部幸せにする
そもそも秋田に来るきっかけになったのは、大学生時代に神戸の居酒屋で秋田の新政(あらまさ)のお酒を飲んだことです。居酒屋の店主が新政の代表とお知り合いで連絡をとってくださって、お酒を飲んだその日に新政に就職することが決まりました。昔から運がいいんです。
私は小中高大と世間にあまり馴染めず、それだったら自分で事業をやった方がいいかなと大学時代から起業を志していました。
起業するにしても10年生存率が10%というのが基本なので、やったら成功するわけではないけどやり続けるモチベーションがないとうまくいかないとは思っていて、でも別にお金持ちになりたいわけでもないし、有名になりたいわけでもない。そのあたりのモチベーションの源泉を大学時代に探っていました。
大学時代に所属していたアントレプレナーシップとベンチャーファイナンスのゼミで、「起業家は起業して雇用を生み出すことそれ自体が社会貢献だ」ということと「雇用の8割は中小企業が生んでいる」ということが書かれている論文を読んで、10年生存率10%といっても、起業家という人種が起業し続けないと雇用の8割が失われていくんだなと思いました。
「起業家は起業して雇用を生み出すことそれ自体が社会貢献だ」という考え方が私にはしっくりきまして、それから事業をすることで雇用を生み、ステークホルダーを全部幸せにするというのが根本の思想になりました。
事業をやっていくうえで利益や売上が第一目標にあるわけではなくて、いかに雇用を生んだのかというのが一番上にあります。
秋田は人口減少率ナンバーワン、少子化率ナンバーワン、高齢化率ナンバーワン、自殺率までナンバーワンという県です。その中でもトップランナーの男鹿市で、この町の未来のために何ができるかと考えると、賃金が良くて、プライベートも充実していて、仕事内容も面白い、そんな良い仕事を生み出し続けることなんじゃないかなと。
それに伴って、この地域の人が豊かになったり、移住してくる人が増えたり、中高生が男鹿に住み続けてもいいかなと思ってくれたり、そういったことを生み出し続けるのが私の仕事だなと。
私にとって、人のため、と思うことが一番力が出るんですよ。結局人間は自分のためには生きていけないと思うんですよね。家族、従業員、農家さん、酒販店さんといった人たちを事業を通じて幸せにできるか、ということを目標にすえた方がやっぱり力が出ます。
男鹿の町に文化を作りたい
起業して2年で4つの事業を立ち上げましたが、男鹿の町にはまだ足りない機能が色々あります。
まず宿泊施設です。せっかく男鹿まで来てもらっても、電車で来て、電車で戻って秋田市に泊まるというパターンが多いので、機会損失として大きいなと。そこで早ければ2024年の秋、冬くらいを目途に40人規模の宿泊施設を作る計画で今動いています。その前に一棟貸しの宿を始めようと思っていて、それはおそらく2023年中にはできてくるかなと。
他にもスナックを作るであったり、ジンとかを作る蒸留所を作るであったり、あとは他社との協業でオーベルジュ(※2)をやるであったり、ちょっと高級なレストランみたいなところの場所取得も進んでいたり、これから1年半くらいで私のやりたいことが形になってくるんですね。そこまでが男鹿の復興の第1ステージです。
(※2)宿泊施設を備えたレストラン
その次の動きとしては、町の人や移住してくる人が新たに私とは違う価値観でコンテンツを作ってくれるようになるといいなと。その動きを加速するために、この9月からマルシェ(※3)みたいなイベントを開催しています。
(※3)フランスで市民が食材や雑貨などの日常の買い物をする場所
チャレンジしたいけどまだお店を出すには早いという人たちを集めて出店してもらって、そこでファンがついたら、私たちが所有している不動産に入ってもらってお店を作ってもらいたいなと。
私たちが事業計画作りや資金調達、SNSでの宣伝といったサポートをすることで、チャレンジのリスクを下げて、チャレンジャーを増やしていく、みたいなところを次のステップとして考えています。
すでに三菱地所さんや一風堂さんといった大きな企業を巻き込んで町づくりを進めてはいますが、じゃあ三菱地所さんが今の段階で男鹿に100億円投資しますかと言えば無理なわけですよね。
そこを私が礎を作った先に、投資してもいいかもと思える存在になっていけたら、たとえば数十億規模の投資がされて、世界中から男鹿をめがけて泊まりに来るような宿泊施設や、ショッピングやリラクゼーションが楽しめる複合施設ができてくるかもしれないと考えています。
またコンテンツだけを作っても、コンテンツはいつかは古くなるので文化を作りたいです。国家戦略特区の話がうまくいけば、日本酒を作りたいという方々が男鹿に集まってきてくれると思っていて、そういった方々の支援をして、それが10年、20年続いていったらやっぱり文化になると思うんですよね。
それで「酒の町」っていう文化の柱があれば、この町が100年先、200年先に残ってくれるような気はしています。そういったところを全部作ってから死にたいなと。
お酒は市場が縮小していっているし、斜陽産業に見えるわけですけど、やっぱり非常に文化的なんですよね。新興の酒蔵ばかり集まっている町なんてないわけで、それを作っていけばアメリカのポートランド(※4)みたいな感じの町に男鹿がなりうると思っています。
(※4)クラフトビール醸造所が世界一多い都市
私ひとりではなかなか難しいですが、いろいろな人たちが力になってくれることによって、不可能なことが可能になっていく。今の人口減少のスピード感を見ていると、この町が未来に残ることは難しいですよね。
でもその難しいことがもしこの場所で可能になっていったら、人類全体が迎える人口減少という課題に対する、解決の方法に繋がるかもしれない。そういう大義名分も感じながら、今色々チャレンジさせてもらってます。
大切にしている2つの採用基準
今のところご縁もあって良い循環が回ってはいますが、組織も人が増えてくると難しいなと思うことはあります。
私自身、縦割りの組織や上下関係が嫌で起業をしているところもあるので、従業員全員フルフラットな会社にしたいなと思っていたのですが、私が会社におらずマネジメントできていないと従業員同士のもめ事が起こるといったこともあります。
ただ単に能力が高い人たちがマネジメントに向いているわけでもないでしょうし、私が常に現場にいるというのも難しいので、次はマネジメント系の人材を採用して、その人たちの元で従業員も育っていて活躍してもらうというような、次の段階の組織にステップアップしていかないとと今は思っていますね。
マネジメント系の人材は募集しつつも、常に新しいことにチャレンジしているので、今ここが足りてないからここで活躍してくださいみたいなことは採用においてはありません。
採用基準は大きく分けて2つで、1つは「ニコニコして働けるかどうか」、もう1つは「うちの会社に来ることでその人の人生がより良くなるかどうか」です。能力とかはあまり見ていません。
私自身あまりニコニコして働いていないので、みんながニコニコしていてくれないと会社がおかしくなるんですね。基本はニコニコしていて、つらい時もちゃんと笑えるというのが1つ大事なポイントです。
面接ではその人が将来的にやりたいことを聞くようにしています。その人がやりたいことに対して、そういうことをやりたいんだったら、今度こういう事業をやるから、そこを担当したらこういう力がついて、将来やりたいことができるようになるんじゃない?というような話をしています。会社のやりたいことと、その人が将来的にやりたいことがある程度方向性が一緒かどうかということを大事にしていますね。
【URL】
稲とアガベ株式会社の公式サイトです。
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社名:稲とアガベ株式会社
本社所在地:秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21
設立:2021年
事業内容:酒米生産、酒類製造・販売、レストラン経営
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